スイスのグランにある国際自然保護連合(IUCN)で海外インターンシップに従事している
渡邉さんから、インターンシップレポートが届きましたので、ご紹介します。
海外インターンシップレポート
現在、IUCNの世界遺産プログラムでは、来る6-7月にドイツのボンで開催される世界遺産委員会に向けた準備として、1. 登録済み案件のモニタリングと2. 新規推薦案件の評価が進んでいます。私もここ一か月ほどの間に両方の業務に関わるようになりました。
1.モニタリング:保全状況報告書(State of Conservation(SOC)Report)の作成
世界遺産条約締約国が提出した自然・複合遺産の保全状況の報告に基づき、2月からSOC Reportの作成を進めてきましたが、英仏の翻訳の締切りが近づき、終盤戦に入っています。UNESCO世界遺産センターおよび(複合遺産については)ICOMOSとも原稿をやり取りし文面の確定を進めているところです。
SOC Reportでは、締約国による報告を、過去のSOC Reportや世界遺産委員会決議、外部専門家の意見、メディアの報道などと照合し、保全状況がどの程度改善されているか分析し、世界遺産委員会で採択にかける決議草案を示します。
レポート作成の流れは、担当者がまとめた原稿を、モニタリングチームヘッド、世界遺産プログラムディレクターのチェック・承認を受け、UNESCO世界遺産センターとICOMOSに送ります(IUCNもICOMOSが作成した複合遺産の原稿にコメントします)。先方からのコメントを受けて、チーム内でさらに原稿を検討し、場合によっては地域事務所等に正確な状況の確認を行い、上記のやり取りを繰り返して完成させていきます。
私の業務は、作成担当者とプログラムディレクターとの調整役でしたが、なかなか予定通りに行かず、最初のうちは関連する文書をいろいろと読みあさって、SOC Reportの作られ方や各遺産の状況について勉強しました。原稿が仕上がってくると、他のメンバーと同様に原稿の検討、修正に加わるようになりました。提出期限が近く短時間で回答しなければならないこともあり、初めのうちに読み込みをしておいたのが結果的に役立ちました。
自分の指摘がチームで取り上げられたり、修正文面を提案したり、最終的にSOC Reportが少し変わったこともありやりがいを感じます。インターンでも他のメンバーと変わらない関与が求められていると感じますし、こちらの考えも大切に扱っていただいていると思います。SOC Reportを批判的に検討する点でとても勉強になり、また、専門家や現地住民からの意見書など、外部からは目にできない資料に触れることができたのも貴重な経験でした。
一方、特に問題のあるケースについては、世界遺産センターとスカイプでの打ち合わせが頻繁に行われます。決議草案の内容やそもそも世界遺産委員会で議題化するか否かなど、意見が異なり、難しい交渉になることもあります。
締約国との関係を考慮する世界遺産センターに対し、チームの中では、専門的知見に基づいた保護・保全を重視し、条約の政治化を懸念する声が聞かれます。
世界遺産条約が今後どのような方向に向かっていくのか考えさせられます。
2.新規推薦案件の評価
2015年と2016年の二つのサイクルが並行して進んでいます。
(1) 2015年6-7月の世界遺産委員会で審議する案件
昨年、進められてきた現地調査、推薦書の審査などを経て、その結果をIUCNとしての意思決定主体である世界遺産パネル(複数の専門家からなる評議委員会)が検討し、世界遺産委員会への勧告を決定します。
3月中にパネル・ミーティングが二回開かれ、全ての推薦案件の勧告内容が確定しました。パネル・ミーティングは、世界各地にいるメンバーを電話会談でつないで行われました。私もミィーティングに参加し、何人かのパネルメンバーとも直接お会いしました。今後は、世界遺産委員会で審議の基本資料となるevaluation reportの作成が主な仕事となります。
(2) 2016年の世界遺産委員会で審議される案件
2月にパリでUNESCO世界遺産センターとの会議が開催され、私も同席しました。そこで、推薦書の受理可否が決定されました。6月の世界遺産委員会終了後から本格的な評価過程が始まります。
直近の仕事は現地調査の企画で、締約国の担当者と連絡を取って日程を調整した上で、派遣する専門家を決定します。
締約国への正式な連絡は全て書面(レター)で行われます。今週は、最初のレター(推薦書受理の通知、現地調査への協力依頼)の発送に向け、文面の改訂など、準備をしているところです。
渡邉 真菜美