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【インターンシップレポート】小笠原村役場環境課(半田 文)

2023年3月17日 16時38分

人間総合科学研究群 世界遺産学学位プログラム 半田

私は小笠原村役場環境課で業務を体験させていただきました。このインターンシップでは、環境課だけでなく、産業観光課、動物対処室、環境省、東京都小笠原支庁、NPO法人小笠原自然文化研究所の業務などにも同行させていただき、小笠原諸島の自然環境を守る様々な関係機関の働きを学びました。

業務は、外来種対策やルート整備、エコツーリズムに関わる取り組みなど、幅広く体験させていただきました。インターンシップ初日は、南島の調査から始まりました。南島には、自然観光資源を守るために利用を調整する「小笠原諸島自然環境保全促進地域(南島及び石門)の適正な利用のルール」(通称「南島ルール」)があり、その機能を実際の利用から見ることができました。この体験は、現状に応じたルールの見直しの必要性や、ガイドに対する指導の重要さなどを考えるきっかけになりました。

今回、体験を通して、小笠原の自然の保全には多くの人々の取り組みや思いが込められており、様々な機関の連携によって保全されてきたことが分かりました。また、実際にお話を伺ったり、現場で取組みに参加することで保全の難しさを痛感しました。

これからも、小笠原の自然を守り続けるために多くの経験や有効な方策の検討、人々の協力が必要なのだと感じました。

多くの観光客が訪れる南島における利用状況調査の様子。訪問者の見える位置から、南島ルールの遵守状況を調べている。

写真 半田文

【インターンシップレポート】公益財団法人日本自然保護協会(深澤 春香)

2023年3月16日 11時58分

生命地球科学研究群 地球科学学位プログラム 深澤 春香

私は、6月から 8月にかけての14日間、 SOMPO環境財団が実施しているCSOラーニング制度を利用し、公益財団法人日本自然保護協会(以下、NACS-J)にてインターンシップを体験させていただきました。

インターンシップは、テレワークと事務所出勤を併用した形式の実施で、主にモニタリングサイト1000里地調査に関わらせていただきました。この調査は、市民調査員の協力を得ながら100年の長期にわたり里山の変化を把握し、生物多様性の保全施策に役立てるNACS-Jと環境省の共同事業です。私は、新規調査サイト募集の広報補助や、市民調査員の方へ向けた調査データの入力マニュアル作成を体験させていただきました。

なかでも印象に残った業務は、広報の一環として取り組んだ、新規サイト募集のオンライン説明会です。この説明会では、既に調査に参加している市民調査員の方から活動報告があり、調査体制やデータの活用、さらには高齢化という課題まで、現場の実情を知る機会となりました。講義だけでは得られなかった現場の視点を新たに得ることができ、大きな学びとなりました。

最後にこの場を借りて、NACS-Jのみなさまをはじめ、このような機会を提供してくださった方々に感謝申し上げます。

モニタリングサイト 1000 里地調査新規サイト募集説明会に向けたスタッフミーティングの様子。中央が筆者。

写真 公益財団法人 日本自然保護協会

【インターンシップレポート】特定非営利活動法人森づくりフォーラム(松田 森樹)

2023年3月16日 11時43分

生命地球科学研究群 生物資源科学学位プログラム 松田 森樹

私は SOMPO 環境財団が実施しているCSO ラーニング制度を利用して、NPO 法人森づくりフォーラムでのインターンシップを行いました。森づくりフォーラムは「森とともに暮らす社会」の創出をめざす市民団体です。主に、森林ボランティア保険など森づくり市民団体へのサポート、フォレスト 21 さがみの森の運営、市民向けの普及啓発活動、森づくりや森林・林業に関する情報提供などを実施しています。

私はフォレスト 21 さがみの森における定例活動の運営サポート、オンラインでの事務作業や普及啓発ウェビナーの運営補助等に携わらせていただきました。

フォレストさがみの森での森づくり活動においては、長期にわたって整備されてきた森林や、季節によって変化する木々の姿から、活動を持続することの大切さや生物多様性について五感を通して実感することができました。また、参加者の方々がとても楽しそうに森林で活動されている様子が印象的でした。情報発信や、それらに対する参加者からのフィードバックからは、自分が想像していた以上の関心が、市民社会から森林に対して向けられていることを感じました。今回のインターンシップは、市民の皆さんの生の声や現場での体験を通して、市民としての「私たち」がどのように森林と関わることができるのかについて考える貴重な機会となりました。機会を与えてくださった皆様にこの場をお借りしてお礼申し上げます。

さがみの森の様子

写真 松田森樹

筑波大学創基151年開学50周年事業 筑波大学中央図書館展示

2023年3月7日 16時00分

自然を見る、感じる、記録する

―ナチュラリスト青柳昌宏のスケッチと軌跡―

Watching, Feeling, and Drawing Nature: Sketches and the Life of Masahiro Aoyanagi

東京教育大学農学部で昆虫学を、理学部で生態学を学び、東京教育大学(筑波大学)附属盲学校の副校長として視覚に障害のある生徒への生物の授業方法を開発した青柳昌宏(19341998)のスケッチ展が中央図書館で開催されます。

青柳昌宏は、教育者であると同時に一人のナチュラリストとして、日本で初めて南極のペンギンの生態研究に本格的に取り組み、また日本自然保護協会の理事として、自然観察指導員制度や、からだの不自由な人との自然観察~ネイチュア・フィーリングの創設に尽力しました。

没後25年にあたり、青柳昌宏が東京教育大学時代に残した生物の精密スケッチや、海外調査の際描かれたスケッチ、フィールドノート、附属盲学校時代に開発した教材などを中心に、その足跡をたどります。

 

日時:2023410日~531日(入館無料)

場所:筑波大学中央図書館 ギャラリーゾーン(本館2階)

共催:

筑波大学自然保護寄附講座、人間総合科学研究群世界遺産学学位プログラム、生命地球科学研究群、

生命環境学群、下田臨海実験センター、附属視覚特別支援学校

後援:

公益財団法人日本自然保護協会、ペンギン基金

 

(注)

中央図書館は、コロナウィルスのため、これまで学外者は入れませんでしたが、3月から学外者も入館できるようになりました。

学外者の方は、2階の受付で、展示を見たいと言っていただければ入館できます。

[レポート] 小さな工夫で大きな効果 ~ナッジと行政の今と未来~

2023年3月2日 16時00分

小さな工夫で大きな効果 ~ナッジと行政の今と未来~

人間総合科学研究群 心理学学位プログラム 小林勇登

 皆さんは日々の中で「これよくできてるなぁ」と感じたことはありますか?写真1は,タバコのポイ捨てを防ぐためにデザインされた吸い殻入れです。「世界一のサッカー選手は?」というメッセージの下に,「ロナウド?」「メッシ?」という2つの吸い殻入れがあり,強制されなくても思わずどちらかに吸い殻を入れたくなってしまう仕組みになっています。現在,人間の行動を科学的に分析した理論に基づき,人により良い行動を促す「ナッジ(nudge)」という手法が世界的に注目を浴びています。今回は,このナッジを取り入れた施策を推進しているつくば市に取材し,その未来を考えるために現状を聞きました。

写真1:つい入れたくなる吸い殻入れ

NPO団体hubbubウェブサイトより引用 https://www.hubbub.org.uk/

【世界各地で広がる「ナッジ」とは?】

ナッジとは,直訳すると「そっと後押しする」を意味し,行動科学の知見の活用により,人々が自分自身にとってより良い選択を自発的に取れるように手助けする政策手法のことです※1。従来,公共政策の分野では,法規制,経済的インセンティブの付与,普及啓発活動などによって人々に選択を促す手法が多く用いられてきましたが,最近,欧米を中心に政府や自治体がナッジを活用し,人々に公共の利益になる選択を促す動きが広がりつつあります。

日本においても,環境省が日本版ナッジ・ユニットを設置するなど2,その活用が進められています。特に昨今の新型コロナウイルス感染症対策では,人々の自発的な行動変容や対策が求められるため,ナッジへの期待が一層高まっています。しかし,ナッジを活用している地方自治体はまだまだ少なく,活用に至った自治体も手探りの状態が続いているのが現状です。

 

【ナッジを用いた施策で実績のあるつくば市】

そこで今回,令和2年から3年にかけてナッジを活用した取り組みを行い,環境省等が主催する「ベストナッジ賞コンテスト2021」で大賞(環境大臣賞)を受賞したつくば市を取材しました。受賞した取り組みでは,市民に回答を依頼する封筒を郵送した際の返送率を向上させるため,市民を4つのグループに分け,それぞれに異なるメッセージを印字した封筒を郵送してみたところ,「〇年〇月〇日までにご返送ください」と返信期限をはっきり印字したグループで返送率が高くなることが明らかになりました(写真2,図1)。

写真2:封筒に貼る宛名シール下部にナッジを活用したメッセージを印字した。

(つくば市プレスリリースより引用https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000350.000028199.html

図1:動作指示(返送期限)を入れたグループの返送率(52.8)は,メッセージを
入れなかったグループ(統制群)と比べて13ポイント高くなった

(つくば市プレスリリースより引用https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000350.000028199.html

また新型コロナウイルス感染症対策として,来庁者の消毒実施率を上げるための実験も行っています。他の自治体の先行事例やナッジ理論を参考に試みたところ,風除室の消毒台を来庁者の動線上に設置した場合と,警備員による声かけを実施した場合に実施率が高くなることが明らかになりました。

 これらの取り組みの影響について,つくば市役所統計・データ利活用推進室の室長廣瀬勲さんと主任の金野理和さんに伺いました。金野さんは「〔目に見える効果が表れたため〕庁内全体で,ナッジを活用する雰囲気が出てきた」と言います。事例が職員に共有される中で,金野さんや廣瀬さんのようなつくば市の政策イノベーション部が主催するナッジ勉強会の参加者に相談すると解決してくれるようだという雰囲気が出てきたそうです。また,行政文書を作成する際,簡潔さやわかりやすさを重視する意識が生まれてきました。ナッジを取り入れる目的が共有され,職員一人一人の意識が変わっていくことが重要なのだとも考えられます。

 

【ナッジ導入における自治体としての難しさ】

 一方ナッジは,人々の直感的な思考を利用し,対象者に介入を意識させずに行動を促すため,倫理的な懸念もあります。つくば市では,研究における倫理チェックリストを実際の政策現場向けに設計しなおし,細心の注意を払ってナッジの実践を行っているそうです。

 ナッジの効果を適切に評価するには,厳密に介入を行う必要がありますが,特定のグループが不利にならないよう対策する必要もあります。例えば,封筒の返送率についての研究では,印字内容によっては,返送率が低いグループが生じると考えられました。そのため「返送率が低いグループには職員が直接電話する」といった対策を事前に徹底的に洗い出したそうです。

 効果検証の影響は市民だけでなく職員にも及びます。ナッジを用いた何らかの施策の効果を数値として可視化した場合,十分な効果が現れない場合もあります。「もしある施策で効果が無いということがわかったなら,それがわかって良かったね,という雰囲気を〔その部署で〕作っていかなければならない」と金野さんは言います。また効果検証のための数値化には通常業務が増える側面もあるため,職員同士の理解や気遣いがとても重要となります。

 

【日本の自治体とナッジの未来】

 これから先,より多くの自治体でナッジを含めた行動科学に基づく手法の活用が期待されます。その中でまず大事なのは「職員が楽しむことではないか」と金野さんは言います。その方がより柔軟に発想ができ,より良い施策の実現に繋がるでしょう。加えて,課題がまず先にあり,その解決手段の一つとしてナッジが使えることが大切です。廣瀬さんは「ナッジを使うことが目的にならないことが大切」と話していました。

 市民が市役所に相談したいと思っているときに,複雑で分かりにくい手続きが必要であったり,またそもそも市役所で扱ってもらえるのかがわからなければ,問題の解決は望めません。「ナッジの考え方が庁内全体に広がり,〔いろいろな仕組みが〕スッキリすれば,〔市民が〕わざわざ調べず目の前の選択肢を選ぶだけでよくなる」と金野さんはナッジを活用する未来を展望します。

つくば市の職員の方々は,全国の自治体職員の方々と同様、市民の幸せに寄与したいと強く思っています。現在,自治体同士でのノウハウや事例の共有,NPO法人や大学の研究者との協力など,各所の連携が進みつつあります。行政からメッセージがどのように届き,それを受け取った自分がどう行動するのかに注意してみると,自治体職員の方々のアツい思いを感じることができるかもしれません。今後ナッジの活用はさらに広がり,生活の様々な場面で人々を支えるようになるでしょう。

写真3:つくば市役所の政策イノベーション部が主催する「ナッジ勉強会」に参加し,
ナッジの推進を行っている統計・データ利活用推進室室長の廣瀬勲さんと
主任の金野理和さん

※1 環境省HP http://www.env.go.jp/earth/ondanka/nudge/nudge_is.pdf