お知らせ News

荘川化石フォーラム2022に自然保護寄附講座履修生が登壇します

2022年7月19日 09時21分

荘川化石フォーラム2022「講演会の部」

荘川化石フォーラム-A4チラシ表

日時:2022年8月 7日(日)AM 9:00〜PM 12:00

講師:
真鍋真(まなべ まこと)・国立科学博物館 標本資料センターコレクションディレクター他
伊左治鎭司(いさじ しんじ)・千葉県立中央博物館地学研究科 主任上席研究員
植松里菜(うえまつ りな)・筑波大学大学院生

定員・条件:90名(先着順)

会場・住所:荘川総合センター文化ホール(〒501-5492 岐阜県高山市荘川町新渕430番地1)

費用・参加費:無料

主催:岐阜県博物館

共催:高山市

詳細・お申し込み:https://www.gifu-kenpaku.jp/event/04024-1/

関連情報:
ロイター「国内最古、恐竜の卵の化石」(2021年7月3日)
CBCニュース「日本最古の恐竜の卵の化石と判明 1億3000万年前の地層から見つかる」 (2021年7月3日)
朝日新聞「岐阜で発見の恐竜の卵、国内最古か 1億3千万年前地層」(2021年7月4日)

2022年度自然保護セミナー第2回を開催しました

2022年7月7日 14時57分

202275日(火)に自然保護セミナー第2回「自然保護分野のキャリアパスを考える~世界と日本から」を実施しました。
履修生22名、教職員4名の合計26名の参加がありました。

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ご講演の様子(撮影:事務局)

生物多様性保全のための情報プラットフォームの開発と普及を手がける藤木庄五郎氏(株式会社バイオーム創業者兼CEO。本社:京都市)より「生物多様性×起業×IT×国際」と題して話題提供をいただきました。

大学院時代のインドネシアでの熱帯林研究を通じて生物多様性にかかわる社会課題を強烈に見出した原体験、生物多様性保全に起業というビジネスの立場からアプローチするように至ったきっかけ、さらに事業化までの過程や現在取り組んでいる産官学民連携型の事業を臨場感たっぷりに共有いただきました。

都市文明とは隔絶された熱帯林での過酷な調査、創業時の地道な事業説明回りと資金集めといった生半可ではない苦労話も交え、起業の難しさとやりがい、そして、その根底にある信念も合わせて履修生に伝えていただきました。

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ご講演の様子(撮影:事務局)

生物多様性とビジネスという異分野の調整を図りながら行政や企業と連携する具体的な取組事例は、自然保護を学ぶ履修生にとってキャリアパスの視野を広げるようなタネを蒔いてもらったように感じます。

履修生からの質疑では、生物多様性保全とビジネスの価値の問題、熱帯林研究の解析手法、生物多様性情報の地域差、生物判定の内容、事業展開の考え方など多岐にわたる質問があり、いずれも丁寧に回答いただきました。
講演後も履修生からの積極的な質問に対応いただきました。

ご講演後の学生との談話(撮影:飯田義彦)
ご講演後の学生との談話(撮影:飯田義彦)

今後、寄附講座を巣立った履修生には、一見自然保護と相反するようなビジネスセクターの発想も活かしながら、新たな自然保護のアプローチを開拓していってほしいと期待します。

2022自然保護セミナー第2回チラシiida

2022自然保護セミナー第2回チラシ.pdf

文責:飯田義彦(第2回担当教員)

海外留学支援ワークショップを開催しました

2022年6月28日 16時30分

6月27日 ⾃然保護寄附講座海外留学⽀援ワークショップ「自然保護分野での海外留学や国際連携に興味ある?~ワークショップで情報収集しよう~」を開催しました。

自然保護寄附講座留学支援担当の庄⼦晶⼦准教授と飯⽥義彦准教授から海外留学と国連機関での国際連携の取り組みについて話題提供いただき、海外留学の準備からその経験を活かした仕事についてまで参加者と意見交換を行いました。

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(写真)当日の様子

【レポート】野生生物の保全における動物園の仕事 インタビュー:多摩動物公園 野生生物保全センター・荒井寛センター長

2022年6月14日 15時02分

野生生物の保全における動物園の仕事 インタビュー:多摩動物公園 野生生物保全センター・荒井寛センター長

生命地球科学研究群 生物学学位プログラム 中嶋 千夏

国際自然保護連盟(I U C N)のレッドリストにおいて、現在、約4万種もの生物が絶滅危惧種に指定されています。さらに、気候変動などの人為的要因により、絶滅の勢いは急激に増しており、国内外問わず深刻な問題です。このように近年注目されている野生生物の絶滅危機に関する問題ですが、絶滅危惧種を「保全」する活動は、実は、動物園においても行われています。保全とは、人が手をかけながら、自然環境や動物などを保護することを指します。今回は、実際に都立動物園ではどのようにして保全活動を進めているのか、その現状を知るために、多摩動物公園野生生物保全センターの荒井寛センター長(写真1)にお話を伺いました。

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写真1:保全現場で活動する野生生物保全センター・荒井寛センター長(写真中央)

©️(公財)東京動物園協会

野生生物保全センターとは?

レッドリストに記載されている絶滅危惧種は多数いますが、動物園における保全では、どの動物園がどの種を保全するのか、それぞれの仕事を調整する必要があります。そこで、都立動物園や水族館を運営している東京動物園協会1は、この調整の役割を持つ「野生生物保全センター」を、多摩動物公園内に設置しました。多摩動物公園は、東京都の多摩丘陵に位置する都立の動物園です。特に、希少生物であるコウノトリの人工繁殖に国内で初めて成功した動物園として知られ、鳥獣保全の実績があることなどから、同センターの設置場所として選ばれました。同センターは保全活動の中心的機能を果たしており、それに基づいて、都立の動物園や水族館は様々な研究機関と連携して保全を進めています。 

多摩動物園が進めている保全活動

1) 絶滅危惧種を動物園内で守ろう、生息域外保全!

動物園は、保全活動の中でも、特に生息域外保全の役割を担っています。「生息域外保全」とは、絶滅の危機にある野生生物を、生息地以外の安全な場所に移し、人工繁殖によって保持する取り組みを指します。多摩動物公園では、中でも、国内希少野生動植物種であるコウノトリとトキの保全に力を注いでいます。

荒井センター長によると、コウノトリとトキは国内で野生絶滅した経緯は似ており、野生絶滅の時期や保護増殖活動の開始時期もほとんど同じだそうです。しかし、コウノトリはトキと違って、環境省の保護増殖事業の対象種に含まれていません。多摩動物公園や兵庫県立コウノトリの郷公園、日本動物園水族館協会が文化庁に働きかけ、IPPM-OWS2(コウノトリの個体群管理に関する機関・施設間パネル)として保全活動を継続してきました。このように、動物園や自治体が中心となって絶滅危惧種の保全活動が行われるのは、異例であるそうです。多摩動物公園内では、コウノトリの人工繁殖を行っており、生まれた個体を放鳥して野生の個体数を増やす活動をしています(写真2)。荒井センター長は、「野外への放鳥個体を確実に作り、遺伝的多様性を確保することは動物園が担う重要な仕事の一つである」とおっしゃっていました。

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写真2:多摩動物公園ではコウノトリにおける保全活動を、野外展示の形で一般向けに公開している。子育てエリアの他に、繁殖ペアを作るためのお見合いエリア、亜成鳥個体が集められるストックエリア、人がコウノトリと触れ合える共生エリアがある。 

さらに、多摩動物公園は、環境省の保護増殖事業に協力し、園内でトキの飼育繁殖も行っています。動物園で育った雛を、佐渡トキ保護センター(新潟県佐渡市)へ移して、放鳥する活動を2007年から継続してきました。放鳥した雛の生存率は年々上がっていることが確認されており、継続した活動がトキの個体数増加に貢献しています。しかし、人の手で育てた雛の生存率は、野生で育った雛よりも低いことがわかり、それからは飼育繁殖の際に、なるべく人の手をかけずに親に任せるように配慮しています。これによって放鳥後の生存率がさらに上がり、トキの生息域外保全がより進展することが期待されます。現在、放鳥個体は佐渡市周辺では定着していますが、本州への広がりが未だありません。今後の保護増殖事業では、人工繁殖した個体を本州で放鳥することを目指しています。荒井センター長は「将来的にはトキが自然状態で繁殖して、トキと人が共生する暮らしを取り戻し、人にとってトキが身近な鳥になるように活動を継続していく」と話していました。

2) 絶滅危惧種の生息地を守ろう、生息域内保全!

動物園で生まれた個体が、野生下で生態系の一部としての役割を果たすためには、前述の生息域外保全とともに、野生生息地内の環境を整備して生態系を守る「生息域内保全」を行うことが重要です。そのことから、多摩動物公園では生息域内保全についても活動を行っています。

例えば環境省のレッドリストで準絶滅危惧種に指定されているアカハライモリ(写真3)は、特に関東地域で個体数の減少が顕著であると言われています。そこで、アカハライモリの生息地における生息状況の調査や、生息環境の改善に取り組んできました。さらに、荒井センター長は長年にわたって地域の小学校と連携し、アカハライモリを題材とする出張授業などの環境教育に携わっています。小学生とアカハライモリの保全現場を訪れ、実際にどろんこになりながら生き物に触れてもらい、野生生息地を保全することの重要性を伝えています。

野生生物保全センターで働く

 野生生物保全センターには現在7名の職員が所属しています。業務は、飼育繁殖に関わる部門と、DNA解析やホルモン測定などを扱う生物工学の部門に分かれます。同センターで働くことは、「興味関心のある分野を自分で開拓し、事業を進めることができることから、やりがいのある仕事だ」と、荒井センター長は話します。

荒井センター長は学生時代、魚類を専門に研究し、その後、恩賜上野動物園内にあった水族館に就職しました。続いて、葛西臨海水族園や井の頭自然文化園、恩賜上野動物園、東京都庁の動物園関連部署に勤務し、魚類のみならず鳥類などの飼育も経験した後、多摩動物公園の同センターのセンター長に就任しました。前述のアカハライモリの出張授業や保全活動は20年近くのライフワークとして携わっており、「保全活動に参加した子供たちには、この経験を忘れずに大人になってほしい。子供たちが10年、20年後に保全分野で活躍し、またどこかで再会できればうれしい」と話していました。

 

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写真3:多摩動物公園で展示されているアカハライモリ。

野生生物保全における動物園の存在とは?

野生生物が直面している問題について多くの人に知ってもらうために、動物園は、保全活動の一部を一般向けに公開しています。公開を通じて、動物園で育った個体はどこへいくのか、また、野生生物を守るためにはなぜ人の手が必要なのかについて、動物園を訪れた人々が疑問に思い、興味関心を持つことにつながります。私たち人間により生息地を追われた動物を、人間が守っている、その現状を伝える場として、動物園は大きな役割を果たしています(写真4)。

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 写真4:保全活動を紹介した野生生物保全センターによるパネル展示。子供から大人まで、全ての人にわかりやすいように、イラストや写真を多く含んだ内容になっている。

1 東京動物園協会…恩賜上野動物園、井の頭自然文化園、多摩動物公園、葛西臨海水族園からなる、動物園と水族館の発展振興を目的とした公益財団法人。

2 IPPM-OWS…Inter-institutional Panel on Population Management of the Oriental White Stork(コウノトリの個体群管理に関する機関・施設間パネル)の略称。コウノトリの保全について、多摩動物公園や自治体、県の関連部署などと連携し、情報交換して活動を調整する団体。

【レポート】サイエンスコミュケーションで大切なこと ~専門家も参加したコミュニケーションを始めよう~

2022年6月14日 14時37分

サイエンスコミュケーションで大切なこと ~専門家も参加したコミュニケーションを始めよう~

生命地球科学研究群 環境科学学位プログラム 水木 陽菜

「コミュニケーション」で悩んだ経験はありますか?よく知っている家族や友達でも、ちょっとしたことがきっかけで誤解が生まれてしまったり、うまくコミュニケーションが取れなくなってしまったりすることがあります。コミュニケーションは日常生活に欠かせないですが、サイエンスに関わる話題でもそれは同じです。さまざまな社会問題の解決が求められている現代、専門家と市民の間の「サイエンスコミュニケーション」が重要視されています。今回は、このサイエンスコミュニケーションが社会で必要とされている役割について考えてみました。

【サイエンスコミュニケーションとは?】

「サイエンスコミュニケーション」とは、科学的な専門知識を持つ専門家とその分野に専門的でない市民との双方向のコミュニケーションのことです。例えば現在、私達にとって大変身近なコロナワクチンで考えてみると、専門家はその安全性や効果などを直接またはテレビなどのメディアで間接的にコミュニケーションを取り、市民に説明する必要があります。それがうまくいかないと、不安が残るためにワクチンを打たない選択肢をする市民が増えたり、疑念が膨らんで陰謀論が広まったりする可能性があります。

私がコミュニケーションがうまくいっていないと感じている社会課題があります。それは、特にSNSを通して影響力のある著名人もよく発信している「SDGs」。私は環境科学を専攻しているので、環境問題に関連した投稿を見ると「それほんとなの?」と思うこともあります。本質からずれていても、真に受けてしまう市民も多くいるように感じます。認知度が高まるのは良いことですが、間違った知識が広まってしまうことは止めなければなりません。そのためには、適切なコミュニケーションが必要なのではないでしょうか。

そこで今回、SDGsに関連したコミュニケーションの現状と課題を取材し、適切なコミュニケーションとは何か、そしてそれを行う上で大事にすべきことを考えてみました。

【専門家と市民の間に立つ行政の役割】

私の身近なSDGsを考えてみると、つくば市内を走るバスにプリントされている「やさしさのものさしSDGs」というつくば市のSDGsへの取り組みのコンセプトが思い浮かびました。

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「やさしさのものさしSDGs」という言葉がプリントされたつくば市が運行しているコミュニティバス「つくバス」

行政が担うサイエンスコミュニケーションには、大きく分けて「専門家―行政―市民」という3段階の主体があると考えられます。そこでまず行政の立場から、つくば市役所持続可能都市戦略室の室長吉岡直人さんと主事の古宇田泰弘さんに、感じている課題と、どのような取り組みを行っているかを取材しました。

はじめに、「やさしさのものさし」でSDGsとはどういうものかが市民に伝わっているかどうかを尋ねたところ、実際に市民からの反響を調査したことはないものの、吉岡さんによると「認識されるだけで大成功、まずは身近なものだと感じてもらうことが大切」だということです。正しい知識でコミュニケーションするためには、市民の側にも興味がないと成り立ちません。行政がその興味を引き出すための入り口づくりを担っていると考えられました。

SDGsと言っても、その17のゴールは多種多様です。市民一人ひとりの行動につなげるための具体的な活動は、持続可能都市戦略室だけではなく、それぞれの部局がコミュニケーションを図り連携して行う必要があります。そこでつくば市役所では、職員研修にSDGsの内容を取り入れたり、各部局が考えた目指すゴールのステッカーを窓口に貼ったりして意識の向上につなげているのだそうです。他にも、広報室がSDGsへの取り組みを伝えるコンセプトブックの作成を行い、イベントの宣伝も連携して行っています。市民とのコミュニケーションのためには、行政内での「連携」と、効果的な「発信」が課題のようです。

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窓口に貼られている各部局の目指すSDGsゴール

さらに、言葉の誤解を解くことの重要性についても聞きました。SDGsは「持続可能な開発目標」と訳されることがあります。「開発」と聞くと、新しく建物を建てる、産業や交通を活発にするというようなイメージを持ちます。しかし、SDGsのD(development)は、「社会全体で人間らしい生活を向上させていく」という意味を持つということです。行政は産業を発展させるための活動ではなく、そのようなまちづくりのために市民の参加を活性化する活動をする必要があります。吉岡さんは、「まずは行政がその趣旨を正しく理解するところから始めなければいけない」と話していました。

【専門家と市民がつながる】

次に専門家の代表として取材したのは、筑波大学生命環境系教授の田村憲司先生。田村先生は、筑波大学とつくば市が協働している社会貢献プロジェクトである「つくばSDGsパートナーズ」の育成に携わり、つくば市が開講する「つくばSDGsパートナー講座」で司会を務めるほか、「つくばSDGsトライ」や「つくば環境マイスター育成講座」の運営に関わっています。つくばSDGsパートナー講座とは、つくば市が年4回開講している市民向けの講座で、毎回テーマを変えてSDGsに関わる専門家が講演を行っています。

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つくばSDGsパートナー講座で司会を務める田村先生

田村先生は「大切なことは市民にSDGsに触れる機会を与えること」とおっしゃっていました。SDGsの達成に重要なのは一人ひとりができることから始めることです。興味を持った先にこの講座があるように、選択肢を増やしておくことが必要になるというのが先生の考えです。

さらに、「専門家の声を市民に届けることも大切」だということでした。この講座では、市民の質問にその場で専門家が答えるため両者の距離がとても近く、一方的に配信される動画にはないコミュニケーションの場があります。市民からすると、専門家がいることで興味の持ち方や学びの深さも大きく変わるのではないでしょうか。持続可能都市戦略室への取材で、吉岡さん達から「大学は敷居が高い」という意見も聞いていましたが、専門家と行政間でのコミュニケーションの取りづらさという課題を乗り越え、専門家と市民がつながることが必要だと考えられました。

【専門家も参加したコミュニケーションを始めることが大事】

「それほんとなの?」と思ってしまうような情報があふれているSDGsですが、それだけ人々の関心が高いとも捉えられます。専門家がその興味に応えなければコミュニケーションは始まりません。間違った知識を広めないためには、SNSの投稿内容ではなくて、そもそも専門家も参加したコミュニケーションが始まっていないことを見直す必要があるのではないでしょうか。

専門家の中には研究者も含まれます。研究者にとっての一番の発信媒体は論文ですが、投稿してもアピールのようだからプレスリリースはしない、投稿できるほどの確証がない情報は発信しない、という研究者も多くいます。そういう立場や考え方の違いがコミュニケーションを滞らせる大きな原因になっているのかもしれません。でも、専門家だけがコミュニケーションの始まりの全てを担う必要はありません。つくば市が間に入っているように、サイエンスコミュニケーターという役割があります。専門家と市民をつなぐ役割を担う組織や人材が、今、必要とされているのではないでしょうか。