お知らせ News

公開講義「保護地域管理論」

2020年11月24日 09時33分

下記の概要で公開講義を行います。ご関心のある方はぜひご参加ください。

日時:11月24日(火)12:15~13:30

場所:筑波大学 人文社会学系棟B216セミナー室

講演者:
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 
農業環境変動研究センター 環境情報基盤研究領域
農業空間情報解析ユニット  専門員
David  Sprague 博士

テーマ:「屋久島で見た日本の国立公園」

自然保護セミナー in 筑波山

2020年11月10日 17時15分



10月25日(日)に自然保護セミナーのエクスカーションで筑波山を訪れました。
筑波キャンパスから見える馴染みの山ですが、実は麓まで20キロ程度離れているため、学生たちも意外と訪れる機会が少ない場所だったりします。
とても天気に恵まれ、絶好のエクスカーション日よりになりました。
ロープウェイとケーブルカーを乗り継ぎ、筑波山を満喫しました。


杉原先生がジオパークガイドとして地質・植生・文化について楽しく案内してくださいました。
日英併記のパネルを使った解説で、留学生にとっても理解しやすかったと思います。
地形地質について知識が少ない私にとっても、ものすごく分かりやすく、筑波山への理解が深まりました。
久しぶりに天気の良い休日だったので、観光客も大勢来ていて、観光と自然保護の両立の難しさも感じることができました。



また、スペシャルゲストとして、つくば市ジオパーク推進室室長も参加していただき、ジオパーク登録の裏話や苦労話を聞くことができました。
残念ながら参加者は少なかったのですが、その分沢山の時間を共有することができ、それぞれの興味関心に合わせた筑波山の魅力を再発見する機会となりました。


文責:武 正憲

【レポート】紡ぐ香り、香る風景

2020年10月22日 09時53分

紡ぐ香り、香る風景-愛媛県大三島の柑橘農家が挑戦する香りの無限性-

人間総合科学研究科 世界遺産専攻 濱久保衛

江戸末期、船で往来する欧米人らによって瀬戸内海の風景は称賛された。以降、優れた風景地を指定する国立公園の第一号となるなど、確かな風景美が存在する。一般に風景とは視覚を通じて認識されるものであるが、そうと限るわけでもない。「香り」である。花の香り、葉っぱの香り、実の香りなど様々な香りが存在するが、そこから想起される風景もある。この香りに秘められている可能性を模索し挑戦を続ける、とある柑橘農家に取材を申し込んだ。

都会から移住し柑橘農家になるまで

広島県尾道市と愛媛県今治市を結ぶ道、しまなみ海道。今治をスタートして、2番目の伯方(はかた)島から大三島大橋を渡ると3番目の島が大三島(おおみしま)である。芸予諸島の中では最大面積を誇り、そこには約6,000人が住んでいる。日本総鎮守に定められた大山祇神社がある「神の島」で知られる一方で、温暖な気候を生かし、みかんを中心とした農業が盛んな島である。

大三島最高峰の鷲ヶ頭山(わしがとうざん)から見た瀬戸内海。正面は広島県大崎上島

現在、大三島で柑橘栽培を営む松田康宏さんは、2012年に夫婦ともに千葉県から移住した。当初は、今治市の地域振興事業を委嘱された「地域おこし協力隊」として赴任していたが、離任後、2013年より柑橘農家として新たなスタートを切った。もともと、農のある暮らしを望んでいた松田さんは、移住した最初の1年で耕作放棄地を借り受けることで、約40aの農地を所有する農家へと転身したのである。
 
5月には咲くみかんの花

草刈りや収穫、剪定、摘果など年間通じた作業がある中で、松田さんの農業に転機が訪れたのは初夏の風が爽やかな5月のことである。島のいたる所でみかんの花が咲いていた。島中が花の甘い香りに包まれるのである。この時松田さんは、花や果実など柑橘のそれぞれの部位の香りを「形」にできないかと考えていた。

その方法として辿り着いたのが香りを油として抽出する「精油化」である。

抽出には、中学生の理科の実験でも行う水蒸気蒸留法を用いた。蒸留器によって香りを抽出するのであるが、ボイラーによって熱せられた花の香り成分は気化する。その後冷却することによって精油(アロマオイル)を得ることができる。またこの時、精油だけではなく芳香蒸留水と呼ばれるフローラウォーターも併せて抽出される。これは化粧水の原料にもなるので、製品化することで余すことなく利用している。
 
実際に使用している精油の蒸留器具

疾患患者のための緩和ケアにもなる

こうして製品化した後は、販売経路の確保が必要となる。食べるものを生産する通常の農家とも異なるので販売経路も異なる。

お客様で多いのはセラピストで、特に広島や岡山など瀬戸内に面するところに住んでいることが多いそうだ。アロマオイルはセラピストの商売道具であることから当然のことではあるが、松田さんのアロマオイルは地産であることが売りである。香りが豊かなことはもちろんであるが、セラピストが「このオイルは愛媛県の大三島のみかんから作られたのです」と話すことで、お客様も香りに由来する風景が浮かび上がってくるのである。香る風景とともに施術中に話が弾むそうだ。

最近は疾病患者への効果も期待され、病院も販路の一つになっているという。リラックス効果などももちろんあるが、その場所に行かずとも香りを嗅ぐことによって疑似体験が可能となり、緩和ケアとして効果を発揮しているという。
 
松田さんが手がけている商品(アロマオイルや石鹸など)

さらに、松田さんは果実を使って精油製造以外の事業も行っている。通常の柑橘農家は、果実自体を販売している。一方、精油の精製では、果実をまるごと使うのではなく、皮だけを利用する。つまり、皮の内側である果肉部分は精油製造の工程には利用しない。そのため、松田さんは果肉部分を搾汁してジュースとして販売している。もちろん果実自体の販売も行っているが、見た目の規格があるため傷などがついてしまえば販売用として扱いづらくなる。しかし精油に関してはそのような見た目に関する規格はないため、効率良く用途分けすることが可能になるのだ。

柑橘類の花卉栽培という点でも合理的な方法であるといえる。柑橘栽培では、一本の木について適切な果実数にするために蕾や果実を間引く「摘蕾」や「摘果」を行うが、間引いた蕾や果実は通常であれば破棄してしまう。しかし、松田さんの場合は摘蕾した花や摘果した実も香りとして形を変え、有効利用している。そして、同じ木であっても、部位や時期によって香りが変わるので、精油化は合理的かつ有効な方法であることが窺える。
 
収穫した果実と松田さん

香りが紡ぐ新たなつながり

松田さんは今、将来的な農業のカタチについて新しいアイディアを実践している。「体験によって生まれるフードチェーン」である。生産者である松田さんが、消費者に生産者の考えや取り組みを共有する。その結果、商品や生産地に対して愛着が生れた消費者は、情報発信や交流など様々な形で生産に関わり、参加するようになるという仕組みだ。

つまり、フードチェーンによって、生産者と消費者が手を結び、より良いものを作る関係が構築されているのである。例えば、時には松田さんが島から出て産地直送イベントや東京のイベントで自ら販売し、時には蒸留所の見学会を開いて、アロマセラピストからの要望やアドバイスを受ける。日常的には離れている島であるが、このような体験を通じて多くの繋がりが生れていく。

大三島で生まれた香りはさまざまなものを紡いでいる。

【レポート】自然という「遊び場」の案内人―エコツアーガイド

2020年10月22日 09時42分

自然という「遊び場」の案内人 ーエコツアーガイド

人間総合科学研究科 
世界遺産専攻 鄧文超

かつて自然の中で生活し、「森から来た」私たちですが、今や「森の中で遊ぶのが怖い」という方も多いかもしれません。山を登りたくでも遭難が心配?自然の楽しさがわからない?希少な植物を守りたくても、どれがどれなのかさっぱり?そんな皆さん、「エコツアーガイド」はご存じでしょうか。エコツアーガイドは皆さんの心配を解消し、自然という「遊び場」を案内してくれます。エコツアーガイドと一緒であれば、自然の楽しさを味わうことができるのです。一方で、地元の自然を守るという大事な活動もしていますが、処遇や仕事の継続性という面で問題のある職業です。エコツアーガイドが職業として成り立つ方法はあるのでしょうか。エコツアーやエコツアーガイドについて長年研究してきた筑波大学世界遺産専攻教授の武正憲先生にお話を伺いました。

人と自然を繋ぐエコツアーガイド

エコツアーガイドを紹介する前に、まずエコツアーについて説明しましょう。

最近、森や海、あるいは山にいったことはありますか?都会に住んでいる人々が日々の生活や仕事にストレスを感じた時、身近な自然に触れるのもストレス解消方法のひとつです。土と草の匂いの混じった空気を吸って、川と鳥の音を聞きながら森の中を歩く。これでストレスを解消できるでしょう。自然を感じさせるだけでなく、森や山などの自然を体験する活動をさせるツアーが、エコツアーです。

植生を破壊してしまうのか、山で遭難するのか、自然の中での遊び方を知らず、つまらなくなるのか。自然は人の「遊び場」であるはずですが、あまりにも自然から離れてしまったため、人は自然の楽しみ方がわからなくなってしまったのです。そこで、自然という「遊び場」の案内人、「エコツアーガイド」の出番です。

普通のガイドの仕事は観光客に観光ポイントを紹介することが仕事ですが、エコツアーガイドの仕事は、自然環境への影響に配慮しながら観光客に自然の体験をさせて、植物や動物などの知識を面白く伝えることです。そのため、エコツアーガイドは自然について豊かな知識を持っており、自分がガイドする場所をよく知っている必要があります。そして、自分の仕事に深い愛があるプロフェッショナルです。
 
山でのエコツアーのイメージ

ゆるくない「案内人」の仕事

エコツアーガイドには各自の得意分野があり、ユニークで質の高いエコツアーを観光客に提供しており、そのため、仕事の進め方もガイドごとに異なります。たとえば山や植物について詳しいエコツアーガイドの仕事は下の通りです。

専門知識を駆使した植物観察ツアーを企画する場合、観光客が興味をもって応募してきたら、エコツアーガイドはツアーを実施する前または前日にツアーのルートをチェックします。ツアーを順調に進めるために、道の状態、野生動物の行動の様子、観察できる植物などを事前に確認するのです。

いよいよツアー当日になったら、天気予報や交通状況を調べたりするなど、確認することが少なくありません。観光客を迎えたら、観光客の様子を見ながら臨機応変に解説し、体験させて、やっとツアーが終わります。しかし、仕事はまだ終わりではありません。体験道具があればその片付け、次のツアーのチェック、今日のツアーのルートや、山そして植物などの記録など、エコツアーガイドの一日は忙しいのです。

愛だけでは職業として成り立たない
 
日本のエコツアーガイドは安定した職業ではありません。個人で営業するか、協会に所属している場合が多く、いずれにしろサラリーマンのような定額の給料がないのです。

また、武先生によると、エコツアーガイドの仕事は休日がメインです。普通の人は多くの場合は週に五日間働いて稼いで生活していますが、多くのエコツアーガイドは二日間で稼いで生活していかなければならないのです。この二つの原因で、エコツアーガイドは「稼げない」職業になっています。

そのため、エコツアーガイドは夢のある職業でありながら、若者に選択される機会が少ないです。埼玉県の飯能市はエコツアーやエコツアーガイドが有名ですが、多くはリタイアした方や本職があって兼業している方だということです。

このように、我々の自然の旅をもっと楽しませてくれる「案内人」―エコツアーガイドは職業問題に直面しています。

ガイドと自然保護の両立ー美しい未来への打開策

エコツアーやエコツアーガイドについて長年研究してきた武先生は、その問題の解決に立ち向かっています。「エコツアーガイドが稼げない原因は仕組みの問題」(武先生)だということです。

武先生は、まず、エコツアーガイドが稼げない部分の仕事である、平日のルートチェックに着目しました。エコツアーを実施しているところは自然遺産地や国立公園など自然が豊かで重要なところが多く、ツアーだけではなく、自然研究、環境保護が行われています。大量なデータを得るためにはモニタリング調査が大切ですが、プロの研究者は忙しく、人手不足問題があり、長期にフィールドに滞在するのは難しいからです。

この問題をエコツアーガイドが解決できるかもしれません。ルートチェックで森や山の奥まで行くため、簡単なモニタリング調査であれば実施できる可能性があるからです。武先生は「ルートチェックと同時にモニタリング調査を行えば、新しい収入ができ、エコツアーガイドが稼げないという問題もある程度解決できるかもしれない」と展望を語っています。
 
筑波大学世界遺産専攻准教授の武正憲先生。
大学時代からカヤックやスキーが趣味で、その延長でプロのエコツアーガイドになった。
エコツアーを熟知し、エコツアーガイドの楽しみも苦しみも、その身をもって知っている。

自然への深い愛があると同時に、自然についての深い知識も持つエコツアーガイドは、人々に自然の大切さ、面白さ、「遊び場」としての遊び方を教えるのが夢であり、職業としたいと願っています。武先生が世界遺産専攻で進める研究は、エコツアーガイドの夢を叶える道を開くことでしょう。