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【インターンシップレポート】「ジャカルタ地盤沈下対策」古賀亘

2019年10月30日 10時01分

生命環境科学研究科 地球科学専攻 古賀 亘

1.インターンシップの概要

この度私は自然保護寄附講座からのご支援を頂き、2019年9月1日から9月28日までの約1ヶ月間に渡り、JICA(Japan International Cooperation Agency:日本国際協力機構)のプロジェクトでインターンシップを行いました。参加したプロジェクトは「インドネシア国ジャカルタ地盤沈下対策プロジェクト」です。

インドネシア国ジャカルタでは、地下水の過剰汲み上げによる地盤沈下が顕著であり、洪水・高潮などの水系リスクを助長し、併せて物流の停滞等の社会経済への影響も大きくなっています(写真1,2)。これに対し地盤沈下に関する国等の組織体制が未整備であり、地下水揚水規制の前提となる代替水源が確保されていないのが現状です。本プロジェクトは、ジャカルタ特別州において地盤沈下の諸原因に関する調査を行い、地盤沈下対策を推進するためのアクションプランを策定し、その過程でインドネシア側の人材育成を行うことを目的とします(2019年度第一回JICAインターンシップ・プログラム資料より引用)。

地盤沈下が進めば沿岸の堤防がより高くなり、河川の改修もより強固に行う必要が出てきます。海岸や河川の景観を維持し、元の自然環境を守っていくためにも地盤沈下は早急に止めなければならない問題なのです。

インターンシップ期間中は、現地視察などを通してジャカルタの地盤沈下の現状とこれまでの取り組みについて学びました。また、各種調整会議に積極的に参加し、大都市ならではの複雑な仕組みや事業を行う上での難しさなどを体感しました。さらに通常業務として統計情報のまとめや資料用の図の作成、データの解析といったコンサルタント業務にも多く携わることができ、貴重な経験をさせていただきました。


 
写真1:海抜以下になった海沿いの地域
年々堤防を継ぎ足して高くしている


写真2:浸水して放棄された海沿いのモスク
地盤沈下の広域的な被害を物語る

2.インターンシップの内容

(1)地盤沈下の原因と現状を把握する
地盤沈下は確かに起きているけれど、一体「どこ」で「どの程度」沈下が起きているのかこれまではっきり分かっていませんでした。そこで、JICAは衛星画像解析技術を用いて地盤沈下量の2次元的な分布を把握しました(図1)。さらに、ジャカルタにおける地盤沈下の要因となっている地層を3次元的に特定するために、JICAはジャカルタ内の2カ所に地盤沈下観測井戸を建設しています(写真3)。私も観測井戸に出向き、実際に機能している現場を観察しました。井戸建設までには相当な苦労があったそうですが、精密に設計された井戸からは今のところ良好なデータが取れています。日本の技術が海外で活用されていることが非常に誇らしいです。

また、JICAが建設した観測井戸はインドネシア側に引き渡すことになっています。そのための会議にも同行する機会がありました。プロジェクトでは今後、インドネシア側が長期的なモニタリングを行えるような体制作りや研修などを積極的に行っていく予定です。


図1:10年間の累積地盤沈下量図
衛星画像解析により作成


写真3:地盤沈下観測井戸
JICAが建設し、現在も稼働中

(2)法規制までの道のり
地盤沈下を根本的に緩和するには、地下水汲み上げ量の制限が必須です。ジャカルタは地下水に関する法律や体制作りが未整備のまま急速に発展してきた経緯があり、社会構造的な脆弱性が目立ちます。商用ビルや工場などを調べると、往々にして未申請の深井戸が見つかるそうです。こういった不法井戸を含めた地下水揚水量の管理が積極的に行われていないこと自体が、地盤沈下抑制のための障害になっています。そこで、JICAではジャカルタの水道事業を監視する役割を持つ行政機関や、井戸の管理を行う州機関などと会議・面会を行っており、私も同行する機会を頂きました(写真4)。

しかし規制に対して前向きな意見を述べるインドネシア側の関係者は当然多くなく、理解を得るためには時間がかかるようです。法規制の実施には関係者全体での意識向上が必須であるように感じます。

まれではありますが、JICAにとって好印象な事例もあります。ジャカルタの水道事業を監視する役割を持つBRPAM(Badan Regulator Pelayanan Air Minum:独立行政法人飲料水サービス規制機関)との協議では、インドネシア側の職員から不法井戸や水道網未整備の状況を問題視する声が上がりました(写真5)。受け入れ国側にこのような監視を担う機関が存在していることが理想的であり、JICAとしては今後BRPAMと協力して水道事業者へ働きかけることが可能です。


写真4:州機関職員との会議
顔を合わせて提案し続ける地道な業務


写真5:BRPAMとの会議
前向きな意見が交わされた

(3)沿岸巨大防潮堤計画との折り合い
地盤沈下への適応策として沿岸防潮堤の建設が挙げられますが、オランダ政府と韓国の国際協力団がインドネシア政府との覚書を締結しているODAプロジェクトが既に存在します。それがNCICD(首都統合沿岸開発)と呼ばれる、北ジャカルタ沖の巨大防潮堤建設計画です(写真6)。要するに高潮に備えて、ジャカルタの沿岸部に巨大な堤防を造ろうという計画で、既に建設が進んでいます。

巨大防潮堤の建設は、本プロジェクトにも直接的に関係するため、JICAはNCICDの今後の動向を把握しておく必要があります。一方で、JICAが持つ地盤沈下量の将来予想データとNCICDチーム側の分析とは少々異なる手順を踏んでいるため、必ずしも一致しません。この結果の統一を目的とした複数回に渡る協議に参加しましたが、インターンシップ期間中では結論を出すまでには至りませんでした(写真7)。NCICDチーム側も、高すぎる堤防に対する地域住民からの反発を懸念しており、計画通りの高さの堤防を建設することにこだわっている訳ではないようです。JICAとしてはNCICDの事業を妨げることにメリットは無いため、専門家同士で詳細な情報を共有して、判断はインドネシア側にゆだねるように調整を進めていく方針です。地盤沈下の進行具合によっては、この堤防よりもさらに巨大な堤防をジャカルタ沖に建設する計画も立てられており、実現すればジャカルタ湾の景観は大きく変わることでしょう。一刻も早い地盤沈下の抑制が必要であると強く感じます。


写真6:沿岸防潮堤の様子
NCICDの計算値に基づき高さが決まる


写真7:NCICDとの協議
ドナーの異なるODA間で足並みをそろえるのは容易ではない

(4)プロジェクト全体のマネジメント
本プロジェクトは都市開発のODA事業であるため、連携が必要となる機関・団体が多岐にわたります。それぞれの機関・団体に立場がある中で、いかにJICAとしての成果を上げることができるのかがチームリーダーに求められるマネジメント力であると感じました。インターンシップ期間中は、州知事の招待による会議や各調整会議に参加して、進行の様子を観察しました。あらゆる会議でJICAチームのメンバーが強いリーダーシップを発揮しており、非常に心強かったです(写真8,9)。

本プロジェクトのような「開発計画調査型技術協力」としては、相手国側が継続的に事業を実施していくための「体制づくり」が最も重要な目的の一つであると感じます。地盤沈下は3年の契約期間内で止まる現象ではなく、今後数十年と向き合っていく必要がある問題なので、JICAによる調査や援助が終了しても、インドネシア側が継続して同様の調査や対策を行っていけるように制度や枠組みを整えておく必要があります。現にインドネシア政府がこれまでに整備してきた地下水位観測井戸の多くは、現在観測が行われておらず管理体制が十分とは言えません。JICAが整備した井戸や、行った調査結果なども同様の扱いを受ける恐れがあり、インドネシア側に責任をもって管理させるために調整を行う必要があります。そのためには各調整会議や個人間での信頼関係作りが大切であり、JICAチームのリーダーはプロジェクトの進行具合を考慮した的確な指示を団員に対して行うことが求められるようです。

写真8:州知事招待の会議
中央発表者がJICAチーム、左奥が州知事


写真9:州知事招待の会議
会議前後にも細かい議論は尽きない

3.感想
インターンシップ経験を通して、途上国の大都市において環境対策を行うことの難しさを実感しました。住民はもとより、行政関係者の中にも自然保護的な意識は根付いておらず、不法な都市開発がいたるところで見られるものの、十分な規制まで踏み込んでいないのが現状です。また、国全体が経済成長の途中であることから、開発を滞らせる方針に前向きではありません。堤防を造ったとしても、景観保持のための予算まで確保することはなく、無機的なコンクリート張りの堤防が海岸と河川を覆います。このような堤防をこれ以上高くしないためにも、地盤沈下に対して危機感を持たせることから地道に始めなければならないと考えました。日本には東京の教訓があります。1900年代の地盤沈下により形成された海抜ゼロメートル地帯を水害から守るために、大規模な治水事業が行われてきました。荒川や墨田川沿いのスーパー堤防や、建造物の地下に造る雨水貯留施設などが好例ですが、地盤沈下によって引き起こされる災害リスクや経済被害、そしてその対策に係る長期コストは莫大です。まずはその様な面から、地盤沈下を止めることの意義を理解してもらい、様々な機関・団体に働きかけて対策を行っていく必要があります。その中で、いかにインドネシア側が継続的に事業を行える体制作りを行えるかが、焦点になると感じました。

末筆ですが、ご多忙の中インターンシップを受け入れていただいたJICA担当者の皆様、八千代エンジニヤリングの皆様に改めて感謝申し上げます。1か月という限られた期間で私にできることは決して多くありませんでしたが、新鮮で刺激的な学びを得ることができました。今回得た経験を今後の研究や仕事に活かし、常に多角的な思考を持てるように努めたいと思います。ありがとうございました。

【インターンシップレポート】「エチオピアENTRO」Ola Mamoun

2019年10月16日 13時51分

生命環境科学研究科 生物科学専攻 Ola Mamoun

About the host institute: 
ENTRO (Eastern Nile Technical Regional Office) is one of the three Centres of the Nile Basin Initiative, (NBI). The NBI was established on February 1999 by nine riparian countries as a transitional institution to embark on the realization of a jointly articulated Shared Vision: “To achieve sustainable socio-economic development through the equitable utilization and benefit from the common Nile Basin water resources”.

Work experience: 
I was an intern at the Eastern Nile Technical Regional Office (ENTRO); Addis Ababa for 3 weeks. Under the supervision of the internship coordinator my work was focused on ENTRO’s Nile for Cooperation Results Project (NCORE). The project objective is to monitor and map water quality parameters in the Eastern Nile basin using remote sensing products and techniques. 

During the period, I reviewed available data on water related parameters for water bodies with the support of assigned ENTRO staff. This enhanced my study of commonly used approaches and sensors employed by the organization in evaluating and quantifying the different water quality parameters examined from their research. 

The climax of my internship was the presentation of my findings and research outcome to the technical staff and fellow NCORE interns. This internship opportunity gave great insight into ENTRO’s research activities and also gave them valuable input which I hope would be useful both for the institution and fellow interns in consequent trainings.



【インターンシップレポート】「環境省気候変動適応室」後藤鮎美

2019年10月16日 12時33分

生命環境科学研究科 生物科学専攻 後藤鮎美

○はじめに
私は、令和元年7月22日~8月2日までの2週間(実働日数10日)、環境省 地球環境局 総務課 気候変動適応室(以降、適応室)にてインターンシップをさせて頂きました。元々私は環境問題とそれに対する具体的な対応に興味があり、環境省における気候変動の影響への対応推進の取り組みを知るため、適応室を志望しました。

環境省のインターンシップの申し込みは、大学を通してのみの応募となり、申し込みにあたり要望書の作成が必要です。要望書には自分が希望する部署で、どのような就業体験を行いたいか記載します。環境省でのインターンシップを考えている方は、各局や各課がどのようなことを行っているのか、環境省のHPで事前に調べておくと良いと思います。

今回私がインターンシップをさせていただいた適応室は、近年見られる気温上昇や豪雨などの気候変動の影響の適応策の推進を行っている部署です。気候変動への対応として、今までよく知られている「緩和策」と呼ばれる温室効果ガスの排出量を減らす活動に加えて、稲や果実の高温耐性種の開発や熱中症予防の促進など既に生じている、あるいは、将来予測される気候変動の影響による被害の回避や軽減対策である「適応策」の推進を行っています。気候変動への対策として、緩和策と適応策をどちらも行っていくことが重要となります。

○インターンシップの内容
インターンシップの主な内容は、気候変動適応計画のフォローアップ報告書作成の業務補助でした。平成27年11月27日に閣議決定された「気候変動の影響への適応計画」(平成30年11月27日に「気候変動適応計画」に改定)の各項目について1年ごとにフォローアップを行い、適応策の進捗状況を把握する方法の検討を行うための業務となります。フォローアップ業務補助の他に、計4つの会議に参加させていただき、気候変動の適応策への理解を深めました。その他にも省内において他局の方などから環境省における様々な業務のお話をお聞きすることが出来、大変勉強になりました。

フォローアップ業務補助は、①各府省庁、省内関係部署の個票の統合、②指標整理票の作成、の2つの業務を行いました。気候変動適応計画は農林水産省や厚生労働省など多くの府省庁が関わって作成しており、フォローアップに関しても多くの関係府省庁と連携していく必要があります。そのため各府省庁に作成してもらった個票を集め、統合する業務をまず、行いました。その後、報告書に添付する指標整理票の作成を行いました。これは、各適応策を定性的または定量的に評価する指標を票にまとめる業務です。指標を一覧にすることで、どの程度個々の適応策が進んでいるのか、わかりやすくするために資料を作成しました。また、フォローアップ業務に関連して、適応策の進捗を把握する方法を検討しました。気候変動の要因→影響→適応策→得られる結果のフロー図を作成することによって、適応策がどの程度まで促進しているのかを図で確認することが出来ます。

会議は①気象庁の職員の方々を対象とした研修における気候変動適応についての講演、②関東広域協議会(地域ブロックにおける国、地方自治体、研究機関などの地域で気候変動に関わっている方々の話し合い、情報交換の場)、③ISAP(持続可能なアジア太平洋に関する国際フォーラム International Forum for Sustainable Asia and the Pacific)における適応セッション(アジアの国々の関係機関のプレゼンテーション、パネルディスカッション)④適応民間セミナー(民間事業者の方々に対してどのように適応策を取り入れていくかのセミナー)の4つに参加させていただきました。気候変動の適応策は国・自治体・民間企業など、様々な立場の人々と協力して取り組んでいく必要があるので、様々な会議がとても多く開催されていました。今回はその一部に参加させていただきました。

○体験を通じて
今回の研修では、気候変動適応という日本で認知され始めている概念を推進している部署においてインターンシップを行うことにより、どのような取り組みを行っていけば適応策を推進できるのかについて学ぶことが出来ました。研修において関係書類の作成に関わらせていただくことにより、気候変動適応を今後、国としてどう進めていくかの指針になっていくであろう業務を体験することが出来、その重要性なども感じることが出来ました。また、気候変動適応はとても多くの関係者が存在し、それぞれがそれぞれの役割を担っていくことが重要であることも様々な会議を通じ、勉強することが出来ました。また、インターンシップに参加する前は、気候変動適応という概念や代表的な取り組みは知っていましたが、法律が出来ることの重要性、それぞれの関係機関の役割や関係性、異なる立場の人々に取り組みを理解してもらうことの難しさなどについて感じることが出来ました。

今回のインターンシップでは適応室を始め、たくさんの環境省の方々にお話を聞くことが出来、適応について学ぶことはもちろん、仕事への姿勢や考え方などに触れることが出来、進路を考える上で大変刺激を受けました。ご多忙の中、インターンシップの受け入れ及び温かいご指導をしていただき、誠にありがとうございました。