1.2 World Heritage Evaluation process
Evaluation processとは、新規世界自然遺産案件に対してIUCNが行う専門的な評価プロセスのことです。3月には (1)今年の第42回世界遺産会議での登録を目指す案件、(2)来年の世界遺産会議での登録を目指す新規案件の2つのプロセスが並行して進んでいました。(1)に関しては、IUCNの現地調査やメディア情報の収集、専門家からの評価レビューを終えて、IUCNとして世界遺産への登録を推薦するか否かの意見をまとめる重要な会議が行われました。世界遺産が本来の自然保護の目的をそれて政治利用されているという指摘もありますが、各国に散る専門家が電話会議で一同に集まり、遺産の置かれた状況や今後の課題などを熱く議論する姿は胸を打つものがありました。専門家としての誇りと経験、そして現場の第一線で自然保護に関わる人々の姿を目の前にして、自然保護の本来の姿と、自分が今後どう関わっていくかを見つめ直す非常にいい機会になりました。
(2)に関しては、3月には各国が世界遺産登録を目指すプロパティの情報やマネジメント方法を記した推薦書が、世界遺産センターからIUCNに届けられました。この推薦書を中心に、1年かけてIUCNやICOMOSといったAdvisory bodyが世界遺産に登録するに値するOUVを遺産が有すかを調査し、その評価を基に来年の世界遺産会議で世界遺産登録の決議がかけられます。世界遺産は、先進国と発展途上国の保有資産数のアンバランスさ、そもそもの登録数の増加とそれによるモニタリングの難しさなどが指摘されていますが、世界遺産という枠組みにAdvisory body内部から触れ、そのプロセスを肌で感じられるのは今後の世界遺産の動向を自分なりに考察することにつながっています。
3. 第42回世界遺産会議に向けての状況
来る6月にバーレーンで開催される予定の世界遺産会議に向けた準備が少しずつ始まりました。
私はロジスティクス関係のサポートに入らせていただいていますが、様々な情報をサーチしていると世界中から世界遺産に携わる専門家や大使が一同に介する非常に重要な会議だということを身にしみて感じてきます。このような貴重な機会に携わらせていただけることに感謝しながら、チームの一員としての役割に徹していきたいと気持ちを引き締めています。
4. 今日までの所感と今後の課題
全体を通して、着任してからWH knowledge bankを筆頭とするかなりの量の資料を読み込むことに時間を注ぎました。世界遺産が制度として始まってからおよそ40年が経過しますが、その間にIUCNに蓄積された膨大な知識、資料、経験は地球規模の財産といっても過言ではないでしょうし、そのような財産を自分の血肉に変えられることは非常に大きな歓びです。
こちらの生活にも少しずつ慣れてきて、1日の中で修論にかける時間を少しずつ延ばし始めました。私は修士論文としてジオパークを中心とした取り組みについて執筆しています。この2ヶ月間、IUCNのインターンに従事して感じたことは、同じユネスコの正式プログラムで、なおかつ同じく保護・保全をその一番の目的にするという点で似通ったプログラムであっても、辿ってきた歴史や関係した専門家によってそのプログラムの中身が大きく異なるということです。IUCNはモニタリングシステムや世界中に散らばるIUCNのメンバーによって、セクターを超えた情報が常に入ってくる仕組みが整えられおり、1つの世界遺産が様々な関係組織によって包括的に保護されていることを感じます。このような仕組みをジオパークというプログラムに転化・応用できないかといった視点を持ち始めたのは、間違いなくIUCNで昼夜遺産の保護に向き合っているチームメンバーに出会えたことによります。
今後、世界遺産会議の準備がますます忙しくなってくると思いますが、その業務の中から自分の修論の質を高めてくれるようなチップスを探していきたいと思います。
5. おわりに
スイスの物価の高さは度々話題に上がりますが、先日マクドナルドに物価指標の確認に行ったところ、日本だと700円のハンバーガーが1600円ほどで販売されていました。毎日スーパーで値段表と睨めっこをしながら買い物をしています。私は日々の生活に余裕がなくあっぷあっぷですが、スイスの人たちからは常に穏やかな余裕を感じます。道を渡ろうとすると信号がなくとも車は必ず止まってくれますし、スーパーに買い物に行くとレジの待ち時間に前後の知らない人と会話を愉しむことは極めて日常的です。道をすれ違うときは他人であろうが挨拶しますし、電車で目が合うと微笑んでその場での出会いを愉しんでいるような印象を受けます。
国連が毎年発行する2018年の世界幸福度レポートで、スイスは5位にランクインしています(2013年には1位を獲得)。物価の高さと幸福度は必ずしも比例するものではありませんが、税収によって支えられる強固な社会保障や人々の権利、治安の維持、そして環境保全に対する取り組みといったことが大局的に人々の幸福の基盤を築いているのではないかと感じます。IUCNや自然保護についてだけでなく、私が今住むスイスという国についてもこれから理解を深めていきたいと考えています。