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【レポート】陸域実習 in 井川演習林

2014年11月4日 11時47分

陸域フィールド実習を終えて

 

夏の厳しい暑さが和らぎ紅葉の季節となってきました。カエデなどを初め様々な植物種の紅葉が見え始める中、924日から927日にかけて陸域フィールド実習を筑波大学農林技術センター井川演習林にて行いました。実習初日は台風16号の影響により雨に見舞われました。強く降る雨により実習の行き先に不安を感じつつ、実習が始まりました。

まず初めに井川演習林について記述します。中部日本の赤石山脈南端(南アルプス)の大井川支流東河内沢流域の上流部に位置し、その面積は約1700haあります。標高は、900m(東河内沢沿い)から最高地点2,406m(演習林北西の青薙山)まであり、低いところではミズナラ・カエデ属などの落葉広葉樹を主体とした林、標高2000m以上ではオオシラビソを含むコメツガ・トウヒなどが生育する亜高山帯針葉樹林と、階層毎に様々な植物種を観察することができます。こうした理由から、本学の生物資源学類で植物の種の多様性を学ぶ実習地として利用されています。また、中央構造線と糸魚川静岡構造線という日本の2大断層が交差する特徴的な地域であるため、岩盤は激しい地殻変動を受けて脆く崩れやすく、山岳地域における気象や地形、治山、砂防、防災などの調査研究が活発に行われています。

次に本実習について記述します。本実習は、様々な分野において調査研究が活発な井川演習林において、主に3つの項目・目的(植物・砂防・動物に関わること)により行われました。1つ目は、植物の種の多様性を体験的に学ぶことです。上條先生と佐伯先生の指導の元、井川演習林内に生育する植物を採取し、植物の見分け方(同定)について学び、最終的に植物標本(43種)を作製しました。2つ目は、植生と地形の関係についてです。井川演習林では、大小様々な土砂崩れの現場を見ることができます。本演習林に勤務・研究をされている砂防学の山川先生から講義とともに現地にて教えて頂きました。3つ目は、野生動物と森林についてです。演習林の技術職員の遠藤さんから、森林のシカ被害について講義とともに現地において教えて頂きました。




次に実習での活動内容を具体的に記述します。1日目は、山川先生による安全講習と井川演習林の説明、技術職員の上治さんによる「井川演習林内における気象」と、遠藤さんによる「シカによる森林被害と森林管理」について講義を受けました。様々な微地形が構成する井川演習林では観測地点において、計測される降水量が異なると聞き、驚きました。また、森林のシカ被害の現状についてとシカの管理のためとしての狩猟とその効果について学びました。狩猟では狩猟犬が活躍しているようで、彼らがシカを山川問わず追いかけているのを知って驚きました。



2日目・3日目は、井川演習林の他、県民の森、千頭に行き、標本となる植物の採取と共に、標高差(気候の変化)により生息する植物種が変化することを体験的に学びました。上記3地点は標高順に、県民の森・山伏山(山頂2014m)、井川演習林(900m~1500m程度)、千頭(300m程度)と並べられます。「県民の森」山伏山は山頂2014m地点に生育するトウヒやコメツガといった亜高山帯を代表する種を、演習林ではカエデ属の15種を初め、ブナ、イヌブナなど冷温帯を代表する種、千頭ではツブラジイ・アラカシなどのシイ・カシ類などを採取しました。植物だけでなく、演習林内では、深層崩壊を起こした地形も見に行き、砂防について現地で勉強しました。岩盤が激しい地殻変動を受けて脆く崩れやすい地形であるため、間近で見ることができました(安全は十分に確保して見に行きました)。








植物標本は採取した日の夜に作成しました。作製には新聞紙を利用します。その方法は、押し花を作るように紙を利用して作成します。片面サイズの新聞紙を使い、植物を挟んだ新聞紙と水取り紙としての新聞紙を交互に、層状になるように重ねます。その後、束となったものを両側から板や段ボールといった強固なもので挟み(もしくは、重りを乗せる)ます。大きさは、片面の新聞紙のさらに半分(B4サイズ程度)で、そのサイズに収まるように植物を剪定・折り曲げたりします。作成に必要な日数は、植物体に含まれる水分量によって変化しますが、大体2週間から一カ月掛かります。その期間、カビが生えないように、できるだけ毎日、水取り紙(新聞紙)を交換します。ここでのワンポイントは、水取り紙の新聞紙と標本の新聞紙を区別するために新聞紙の開く口を交互反転に敷くことです。こうすることで、新聞紙の開く口により標本か水取り紙か判断できます。最後に、標本の新聞紙に種名・採取日・地点・作成者をマジックで書き、完成です。



4日目は、植物同定テストを行いました。採取した43種の中から選出された20種を同定していくテストです。テストは砂防学の山川先生も受けられました。






私は、上條先生の研究室(植物生態学を専門とする)に所属していますが、自身の研究対象が湿地における植生であるため、本実習のような山岳地帯にいく経験があまりありません。これを理由としてはいけませんが、本実習で出現する種のことについてあまり詳しくありませんでした。しかし、実習を通して、新たな知見やあまり触れることのない植物を知ることに限らず、砂防や動物管理などについても知ることができとても良い経験となりました。この経験を、これからの自身の研究、また現場レベルでの自然保護に関する活動に活かしていきたいです。




生命環境科学研究科 西平貴一

※陸域実習の様子はこちらのページでも紹介されています。是非ご覧下さい。
 筑波大学農林技術センター演習林