2.業務の紹介
インターンシップに参加して最初の業務は、莫大な資料を読み、知識を頭に入れることでした。IUCNは国際組織で、国連とのつながりも非常に強いため、取り決めや業務に関することが公式文書として残されています。それらを読み、業務に必要な知識を取り込むことに多くの時間を割きました。その中でも、特に印象的な取り組みについて紹介します。
2.1.World Heritage Outlook
World Heritage Outlookは、初となる世界自然遺産に関する国際的なアセスメントです。世界遺産リストに登録されているすべての自然遺産について、オンラインアセスメントや定期報告書を通して、その保全状況を評価しています。評価は基本的には机上によるもので、
①遺産の保護状況と遺産が有する価値の状態
②価値を脅かす脅威の影響
③効果的な保護、マネジメントがなされているか
という3つの観点で行われます。その評価を基に、すべての自然遺産の状況を、よい(Good)、懸念点はあるが総じてよい(Good with some concern)、悪い(Significant concern)、きわめて悪い(Critical)の4つの評価に分けています。
日本の自然遺産では、白神山地が「よい」、知床・屋久島・小笠原が「総じてよい」の評価を受けています。国内に複数の世界自然遺産を有し、なおかつそのすべてが「総じてよい」以上の評価を得ている国はそこまで多くありません。この背景には行政や地元住民、教育機関といった複数の関係機関の努力があるのだと推し量ります。しかし、自然遺産は気候変動や外来種、ツーリズムや観光開発といった数多くの脅威に晒されています。今私たちが享受できる価値を未来に残していくためには、不断の努力と一人ひとりの理解とサポートがますます重要となってきます。
このOutlookを地域別に見てみると、ヨーロッパや北米に比べ、アフリカや南米、西アジアの後進発展国における「悪い」「極めて悪い」の評価の割合が高いことに気がつきます。WHPは遺産の危機をより早く感知するモニタリングシステム、それらの危機に効果的に対処する国際的なネットワークを有してはいますが、日本のように「よい」と評価を持つ国が、その事例やメソッドを積極的に他国に発信することも、世界全体で稀有なる自然を保護する方法の1つになるのではないでしょうか。(参照:
https://www.worldheritageoutlook.iucn.org/)
2.2.Team retreat
WHPはスイスの本部と、イギリスのケンブリッジにチームオフィスがあります。2月8日~9日開かれた、両オフィスのメンバーが一同に介し、今後のプランや進捗について共有する会議に同行させていただきました。RetreatはBrigというマッターホルンの麓の村で行われました。
普段は直接会えないケンブリッジチームのメンバーに会えたこと、またオフィスと離れた場所でWHPに関わる密度の濃い議論に参加できたことなど、非常に貴重な機会をいただきました。
WHPでは世界中に点在する自然遺産のモニタリング、新規登録を目指す自然遺産の評価など、想像を絶する量の業務をこなしています。全ての業務が、たった8人という人数で行われていることにとても驚きました。
DirectorであるTim Batman氏の元で、非常に優秀なメンバーが、どうしたらより効率よく、より効果的に、より多くの自然遺産を守っていけるかということに日々真摯に向き合っています。
こちらに到着して2週間が経ちました。近くのスーパーに行くと200種類以上のチーズが並んでいて、それを端から1つ1つ試しています。
Team retreatの帰り、電車の車窓からラヴォーという世界文化遺産の町を眺めることができました。山間の急な斜面に、石積みでぶどう畑が作られ、それが階段を成すように一面に広がる景色は、自然の美しさと人間の技術があいまって息を呑むものでした。昨年、世界遺産専攻の演習の一環で、白川郷の石積みに参加させていただきました。地元の方と20人がかり、2時間ほど大汗をかきながらできた石積みは、高さ1m、横幅10mほど。ラヴォーの町一体をこのように石積みの畑で埋め尽くすまでに、一体どれだけの時間と人の力がかかったことかと思いを巡らせました。今を生きる私たちにとっては、当たり前のようにそこにあるものでも、その背景を想像すると、壮大な時間や労力、奇跡的な偶然があってやっと存在するものがたくさんあります。その際たる例が、自然遺産なのではないでしょうか。だからこそ、私たちは自分たちの世代でそれを壊すことなく、次の世代に伝えていくという責任があるのだとも思います。