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【レポート】キプロス島の持続可能性:エネルギーの未来へ

2018年12月18日 11時56分

キプロス島の持続可能性:エネルギーの未来へ

 人間総合科学研究科 感性認知脳科学専攻 Xanat Vargas Meza

健康的な環境、経済的繁栄、社会正義は、現在と将来の世界のすべての人類にとって達成可能でなければならない。 それが持続可能性の目標だ。地理的に隔離されているため、「島」にとって、持続可能性は大きな課題だ。しかし、逆境から得策が生まれることもある。たとえば、日本の瀬戸内海にある淡路島は、1995年の阪神・淡路大震災の震央にあったが、政府、企業、市民が一体となった取り組みを行ったため、現在、政府が定めるグリーン・エネルギー・プランを遂行できている。

地球儀を見ると、淡路島とほぼ同じ緯度に、島国、キプロスがある。地中海にあり、ヨーロッパと中東の交差点に位置している。キプロスは、厳しい気候と、政治的な葛藤の多い長い歴史を持つ。特に2008年から始まった予期せぬ石油価格の変動により、島の脆弱性が増した。政府の指導力は弱いが、国際協力と現地協力の組み合わせにより、キプロスは活性化されつつある。

このキプロスの最近の情勢について、セレン・ボガック先生にインタビューした。


建築学の教授と研究家のボガック博士


キプロスの生活システムにおけるエネルギー:アギア・スケピのケース

ボガック先生はキプロスにある東部地中海大学で副学長を務めた後、現在、同大学の建築学の教授だ。イギリスやチェコなどのヨーロッパ諸国で異文化間の対話と積極的な学習を研究した経歴も持つ。また、環境心理学の博士として、土地への帰着性や、人間と環境との相互作用を調べた経験もある。

キプロスでは、エネルギー管理は都市と農村の生活システムの維持に不可欠になりつつある。ボガック先生はまず、文化的な庭園ともいえる治療コミュニティ、「アギア・スケピ」という実例を教えてくれた。このコミュニティは、麻薬やアルコールの問題を抱えている人々をリハビリするだけではない。果物や野菜を栽培し、家禽を育てる有機農場としての側面も持つ。さらに、太陽電池パネルにより電気を確保し、風力発電も試験もしているという。ボガック先生によると、新しいエネルギー技術の開発は、石油会社の専門家や市民など、島の様々な関係者も参画して行われている。


キプロスのグローバル・エコシティの発展:エコロジー・プロジェクト


島嶼国キプロスにはバッファーゾーンがある。(出典:Xanat Vargas Meza)

ボガック先生は、キプロスの都市、ファマグスタの例もあげた。かつてファマグスタは、観光産業で有名な街であった。しかし、1974年のトルコの占領中に、バロシャと言う地帯が立ち入り禁止地区となり、他の地域から隔離されることとなってしまった。島の3分の1程度を占めるバロシャは、トルコによって管理されてきた。国連は、1985年以来、トルコにバロシャのキプロスへの引き渡しと、町の元の居住者のみならず、誰をも拘束することの禁止を要求している。しかし、平和協議はこれまで成功しておらず、バロシャは幽霊町と化してしまった。

こうした状況を打開するために立ち上がった「エコ・シティ・プロジェクト」は、最新技術を使いながら、エネルギー的に孤立してしまったバロシャをファマグスタに再統合することを目指している。この目標を達成するために、ボガック先生も関わり、海外からの専門家と地元の大学生から成るプロフェッショナルチームは、デザインスタジオでグループ化されて、色々なアイデアを検討した。先生の計画書によると、人間と自然が共存し、再生可能エネルギー源に依存し、無駄をほとんどまたは全く生じさせず、安全性、エンパワーメント、責任、高品質な生活を提供する場として、彼らはグローバルなエコロジーを概念化した。太陽熱充電ステーション、熱と水のリサイクルシステム、輸送システムなど、様々な省エネルギー技術に関連するアイデアがあった。

ボガック先生は、エコ・シティ・プロジェクトの発展過程において、ギリシャとトルコから移民してきたファマグスタ市民の協力が重要であったことを強調した。プロジェクトに参加した地元の学生たちは多層的な問題を認識して、現状を修正する必要性を理解しなければならなかった。たとえば、古い家は政治家にとっては、無駄な土地資源になる可能性があるが、住人にとっては、所有権と愛着を意味する。ボガック先生によると、キプロスでは、土地資源が限られていて、エネルギー資源や廃棄物管理の問題があり、様々な動物種が絶滅の危機に瀕している。同博士は、「すべての関係者の間で意見を聞き、情報とアイデアを共有する必要があり、専門家は専門家の枠を超えて、人間として考えるべき」と語っている。つまり、エコ・シティ・プロジェクトの決定プロセスでは、すべての問題が政治と絡み合っており、キプロスにおける平和と協調が実現されるかどうかが重要なのである。


ファマグスタ市のオテロ城。 都市のインフラストラクチャーには、島内の水不足にもかかわらず、ソーラーパネルと公共の庭園植物の水システムが含まれている。


未来は社会に始まる

地域社会は、持続可能なイニシアチブと環境に優しい行動の導入に不可欠な役割を果たしている。阪神・淡路大震災の被災後、短期と長期のボランティアが急増した。また、淡路島のソーラープロジェクトが設立されたことも市民の取り組みによるものだった。エネルギーを節約し、地球の未来を守るために地元で活動しているキプロスと日本の人々は、持続可能性を模索するための素晴らしい実例である。