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【インターンシップレポート】「環境省希少種保全推進室」松田直樹

2018年10月24日 10時22分
学外イベント

生命環境科学研究科 生物資源科学専攻 松田直樹

この度、自然保護寄寄附講座の一環として、環境省自然環境局野生生物課希少種保全推進室(以降、希少種室)にて、インターンシップを体験させていただきました。私が、環境省におけるインターンを志望した理由は、環境省における自然環境の保全に関わる業務が、生物多様性や環境の保全にどのように結びついているのかを知りたいと考えたからです。

〇インターンシップ申し込みの流れ

環境省でのインターンシップを希望する場合、学生が個人で申し込むことはできず、大学を通して申し込む必要があります。申込に際して、要望書の作成が必要です。要望書には、自分が希望する部署(わかる場合は課や室まで)を第3希望まで記載し、その部署ごとに希望する理由を記載します。希望理由には、どういうことに興味を持っているか、インターンとしてどんな就業体験をしてみたいと考えているか、その後、環境省での就業経験をどのように将来役立てたいと考えているかをできるだけ詳細に記載(環境省HP)する必要があります。

環境省の業務場所は、本省での勤務と、本省以外(地方環境事務所、自然保護官事務所)に大きく分けられます。私の体験先である希少種室は、本省内での勤務でした。もし、環境省でのインターンシップを希望する方の中で、国立公園などの現場での勤務を希望する場合は、希望する部署に具体的な公園の名前などを明記すると良いと思います。いずれの場合でも、HPなどを通して、事前によく調べておくことをお勧めします。

〇インターンシップ体験内容

私の体験した業務は以下の5つに分けられます。

①トキ関係業務(資料作製補助)
②保護増殖関係業務(会議への参加)
③種指定関係業務(希少種保全条例策定状況調べ)
④認定動植物園認定式
⑤出戻りレンジャー報告会

それぞれについて、以下に述べます。

①トキ関係業務

本インターンシップにおいて、トキ関係業務は、メイン業務でした。
まず、トキについて簡単に述べます。トキの学名はNippinia nipponといい、かつては日本全国に生息していた鳥でした。しかし、明治維新以降、狩猟が解禁されたこと、また、羽毛が商用・軍用に珍重されたことなどから、急激にその数を減らし、1950年には、佐渡と能登に生息する35羽にまで減少しました。1981年に最後の野生のトキ5羽を捕獲し、人工繁殖に着手しましたが、繁殖には成功せず、2003年、最後の日本の野生のトキが死亡し、日本産のトキは絶滅しました。

一方、中国では、日本同様に野生のトキの消息は途絶えていましたが、1981年に陝西省で7羽が発見され、それらの保護増殖に成功しました。中国産のトキは、日本産のトキと遺伝的に同一種であると考えられており、1999年には「友友」と「洋洋」のつがいが中国から日本に贈呈され、日本でのトキの保護増殖事業が進められました。

中国から来たトキは、新潟県佐渡市(佐渡島)で大切に育てられ、たくさんの子供が生まれました。2008年には、野生復帰の第一歩として、トキを実際に野に放つ「放鳥」が行われ、10羽のトキが佐渡島の空に舞いました。また、2016年には、野生生まれ同士のペアによるヒナが生まれました。トキの保護増殖事業は、多くの人々の努力によって、良い方向に向かっているといえます。

さて、私は、上述した2008年の放鳥から、今年が10周年ということで、その記念式典に関わる業務を行いました。また、トキの遺伝的多様性を保持するため、中国から新たにオス、メス2羽のトキが贈呈されることが決まり、これに関わる業務を体験しました。これら2つの大きなイベントが重なったことで、ご担当の方々もかなり忙しい状況でした。その中で、私もこれらのイベントに関わる書類の作成業務を行いました。


トキ関係業務では、主に中国から贈呈されるトキに関連する国際的な手続きに関する書類作成などの事務的な業務を体験しました。私が体験したのは、ほんの一部ですが、担当者の方は、日々膨大な量の書類を扱い、とても大変だとおっしゃっていました。しかし、トキに限らず、環境政策は、国際的なスケールで展開されることが多く、そのため責任や緊張感は大きくなりますが、その分、やりがいの感じられる仕事だと教えていただきました。私も、短い期間ではありましたが、重要な書類の作成に携わる中で、それらを感じることができました。

また、業務を通じて、トキの保全の歴史や、現状について知ることができ、その努力と苦労の背景を学ぶことができました。

②保護増殖関係業務

環境省では、積極的に個体数を維持・回復する必要がある種については、保護増殖事業計画を策定(2018年9月時点で64種)して、生息状況の把握、生息環境の整備や動植物園等と連携した飼育栽培下での繁殖の推進などを進めています。また、絶滅危惧種の保全は、減少要因を明らかにしたうえで、自然の生息地で行うことが基本です。これを「生息域内保全」といいます。しかし、生息域内の対策だけでは絶滅を防ぐことが難しい場合には、将来的な野生復帰を目指した飼育栽培下での繁殖などの検討が必要な場合があり、これを生息域外保全といいます。希少種室は、これらの保護増殖事業において中心的な役割を担っています。

インターンシップ期間中に、保護増殖事業の対象種についての会議が何度か開催され、担当の方に同行し、参加させていただきました。今回私は、ライチョウ飼育検討会議(上野動物園)、イヌワシ第1回WG(経産省別館)、全国昆虫施設連絡協議会(多摩動物公園)の打ち合わせの3つの会議に出席し、会議内容についてメモを取り、その概要をまとめました。

参加した3つの会議のうち、ライチョウと昆虫は、動植物園等における生息域外保全によるもので、イヌワシは生息域内保全によるものでした。

保護増殖関係業務を通じて、環境省が取り組んでいる保護増殖事業や生息域外保全活動などについて理解が深まりました。会議への参加を通じて、学んだことは環境省の役割です。保護増殖事業には、多くの人々が関わります。彼らには、それぞれの立場があって、それぞれの考えがあります。目的は対象種の保全と野生復帰ではありますが、人によって目指すレベルなどに差があり、しばしば意見の対立なども起こります。その中で、環境省に求められるのは、その差をなくし、共通の目的に向かって、皆が協力できるように「調整」し、「統括」することだと感じました。加えて、時間や予算も限られてくるので、非常に難しい業務だと感じました。

③種指定関係業務

希少種室は、国内の野生生物について絶滅のおそれを評価した「レッドリスト」の作成と「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)」に基づく、国内希少野生動植物種・緊急指定種の指定において、中心的な役割を担っています。

種指定関係業務では、各市町村の希少種保全条例の策定状況調べを行いました。私は、沖縄県と鹿児島県の策定状況について調べました。種の保存法に基づいて、種の指定を行う際、各自治体が、個別の種について保全の取り組みを行っているかどうかという情報は重要となりますが、その情報の整理は網羅的には行われていません。これらの情報整理の一環として、今回、条例の策定状況調べに携わらせていただきました。

レッドリストの作成や希少種の指定など、最も希少種室らしい業務でした。私が行ったのは、沖縄県と鹿児島県の条例を調べるという、時間のかかる地道な作業でしたが、大変意義のある業務だったと感じています。

希少種や絶滅危惧種を保護するうえで、最も重要となってくる法律が「種の保存法」です。この法律に基づく国内希少野生動植物種に指定されることで、指定された種の捕獲や採取は規制されます。しかし、多くの種を指定しても、そのすべてを管理することは難しいです。そのため、地方自治体が独自に、条例を制定し、種を守ることは非常に重要です。しかし、すべての条例の把握はまだ進んでいません。どの条例でどの種を保護しているのかという情報は極めて重要であり、これらが整理されている必要があります。この一端に携わることができたことに、大きなやりがいを感じました。

④認定動植物園認定式

平成30年6月1日に施行された種の保存法の改正により、認定希少種保全動植物園等制度が創設されました。この制度により、認定された動植物園等は、希少野生動植物種の譲渡し等の規制が原則として適用されないことになります。これにより、繁殖等に向けた他園間における個体移動が円滑となり、保護増殖事業で述べた生息域内保全の推進につながることが期待されます。

この認定動植物園の第1回目の認定式が私のインターン期間中に行われ、式の準備などに携わらせていただきました。この業務では、本省の環境大臣政務官の部屋に入らせていただき、認定式をじかに見ることができたという、とても貴重な体験をさせていただきました。

これまで、他園間で動物などを移動させるには、非常に大変な手続きが行われてきました。それを緩和する役割として、この制度が導入されたことにより、生息域外保全が推進されていくと良いと感じました。

⑤出戻りレンジャー報告会

環境省自然環境局では、地方環境事務所や国立公園などの現場で、レンジャーとして働き、本省に戻ってきた方々が、自分たちが経験したことを報告する会が定期的に開かれており、私もお話を聴かせていただきました。今回は二人のレンジャーの発表でした。

一人目は、北海道のえりも自然保護官事務所に配属されたレンジャーの方でした。その方が就任された当時、えりもでは、絶滅危惧種であるゼニガタアザラシによって漁業被害が発生していました。その問題に対応するべく、新たに自然保護官事務所が設置され、その方が事務所で対応にあたられたとのことです。レンジャーの業務内容や、地元の方々との信頼関係の築き方についてお話いただき、レンジャーの仕事は生物を守るだけでなく、人とのつながりが重要な仕事だと感じました。

二人目の方は、スウェーデンへ留学された方でした。留学生活の内容や、なぜ留学をしようと思ったのかなどについてお話いただきました。レンジャーは皆それぞれが多様な業務を経験することで、多様性にあふれた人材になっていくのだと感じました。

〇体験を通じて

本インターンシップにおける私の目的は、環境省における自然環境の保全に関わる業務が、生物多様性や環境の保全にどのように結びついているのかを知りたいと考えたからです。今回私は、本省での体験でしたので、書類の作成などの、事務的な業務が中心でした。そのため、生物の保護に直接的に関わることはありませんでしたが、体験した業務はいずれも、希少種の保全に結びつくものでした。希少種の保全には、生息域等の現場での保全だけではなく、その種の特性や現状に応じた保全の計画を立てることや、専門家や地域住民との信頼関係、協力体制を築いていくことが重要だと、このインターンシップを通じて学びました。

今回のインターンシップでは、非常に多岐にわたる経験をさせていただきました。環境省の業務の大変さとその分のやりがいの大きさも感じることができ、今後の進路を考えるうえで、とても貴重な体験となりました。ご多忙の中、インターンシップを受け入れていただき、温かくご指導いただきました、希少種保全推進室の方々をはじめとした環境省の皆様に心から感謝申し上げます。