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【レポート】日本野鳥の会インターンシップ

2017年1月20日 14時34分

日本野鳥の会 インターンシップレポート

 

 

周嘉韵(シュウ カウン)

筑波大学大学院人間総合研究科世界遺産専攻

Internship experience at Wild Bird Society of Japan

Zhou jiayun

World HeritageStudies & World CulturalHeritage Studies,

Graduate School ofComprehensive Human Sciences, University of Tsukuba

 

 2016年4月下旬から8月下旬まで、自然保護寄附講座の支援を頂き、東京港野鳥公園、ウトナイ湖サンクチュアリ、および鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリの三か所においてインターンシップを行いました。これらはすべて日本野鳥の会の職員の方によって管理がなされています。インターンシップを通じ、各サンクチュアリの特徴と直面している課題を学ばせていただきました。全体を通じ、非常に充実し、有意義なインターンシップでした。

このインターンシップに挑戦したいと思ったきっかけは、昨年(2015年)、自然寄附講座の授業に日本野鳥の会の方がいらしてくださり、組織の方針や活動などについて紹介をいただいたことによります。このときのお話は私にとってとても意義深く、NGOという組織について強く興味を持つようになりました。また同じく自然寄附講座のセミナーで、北海道のサンクチュアリにインターンシップに行かれた先輩の経験を聞き、ぜひ自分も行きたいと思いました。

 

1.東京港野鳥公園

東京港野鳥公園では4月28日から8月6日にかけて、合計17回、インターンシップをさせていただきました。業務内容としては、(1)母国語の中国語を活かしたホームページの翻訳と展示物の説明文章のチェック、(2)イベントの準備、実施と片付けの補助、(3)団体対応の補助、4)ラインセンサス調査や植生調査などの補助、(5)データ入力(イベントアンケート、鳥類データなど)、(6)環境整備(竹の伐採)、(7)レンジャーミーティングへの参加などでした。東京港野鳥公園は、都市公園と鳥獣保護区を兼ねている場所です。日常業務は、公園としてのイベントの開催や管理、そしてサンクチュアリとしての環境整備や生き物調査などをメインとしています。

野鳥公園のインターンを通して一番印象的だったのは、イベントの部分でした。公園を回りながら周囲を観察し、問題を解くポイントラリー;普段入れない前浜で水生動物を採取し観察する海辺発見隊;また年間を通じて稲の種まきから収穫まで合計7回、親子で参加する田んぼクラブなど様々なイベントが開かれていました。それらのサポートを通じ、日本の環境教育をより深く理解できるようになりました。

特に田んぼクラブについては、都会の子がこんなに積極的に参加してくれるのか、と最も印象に残りました。中国では、高校二年生が三日間、田舎を訪れ、田植えや外来植物の駆除に参加し、また農業生活を体験するコースがあります。私も昔それに参加しましたが、新鮮に感じたこと以外、あまり強い印象は残りませんでした。周りの友達もほぼ同じ感覚で、農業は嫌だと思う人も少なくありませんでした。個人的には、農業体験はとてもいい環境教育ですが、高校のときではあまりにも遅いのではと思います。中国では一部でまだ農業に対する偏見があります。そのような状態で、高校生がある種の先入観を持ちながら農業体験するのはかえって逆効果なのでは?とも思いました。東京港野鳥公園でのイベントも、子供は虫などの生き物には強い好奇心を持っているのに対し、大人の方が怖がっているのが多く見られました。先入観を持たず、好奇心が旺盛な時期に、自然の中で環境教育を行うことはとても大切だと感じました。

中国では近年モンスターペアレントが急増し、学校の遠足をやめようという声が増えています。そのため、もともと少なかった学校外での環境教育が、さらに減少する傾向が見られます。日々、深刻化する環境問題に対し、高い意識を普及させていくことは、とても大切です。そのような中、学校の外で環境教育を行うことは最も効果的な方法だと思います。中国の環境教育の改革は、待ちきれないほど緊急の課題だと思いました。


図1.田んぼクラブの様子。緑色の服のスタッフはボランティアの方 (撮影:周嘉韵) 



図2.海辺で遊ぶ日イベントの様子。 コメツキガニを探しているところ (撮影:周嘉韵

2.ウトナイ湖サンクチュアリ

8月10日から13日まで、北海道苫小牧市にあるウトナイ湖にインターンに行きました。北海道の生態系は、東京や筑波などとは大きく違って、見たこともない植物や初めて聞くさえずりなど、とても新鮮に感じました。東京港野鳥公園のような都市公園とは違って、ウトナイ湖は広い面積を持つサンクチュアリです。業務内容も、イベントの開催より、環境調査やネイチャーセンターでの展示が主となっています。インターンシップの業務としては、ウォークラリーイベントのサポート、外来植物や鳥類の調査、自然情報収集ポスターの作成などを行いました。

北海道でも外来植物の問題はかなり深刻です。今回は、レンジャーの方が定期的に行っている外来植物の調査に同行させていただき、オオアワダチソウが半分以上を占めている区域などを、把握しました。レンジャーの小山さんは植物に非常に詳しいので、小山さんの姿を見て「さすがレンジャーだ」と思いました。そのほか、勇払湿原の自然を保全するため、希少鳥類の調査が定期的に行われていました。日本野鳥の会は以前、こうした調査の結果を元に勇払湿原の特性を保つために三つのコアエリアを決め、それをふまえた保全構想を提出されたそうです。今回は、アカモズの調査に同行させていただきました。残念ながらアカモズの姿は見えませんでしたが、とてもやりがいのある仕事であることを認識しました。


図3.ウトナイ湖サンクチュアリネイチャーセンターの展示物 (撮影:周嘉韵

図4.羽にケガを負ったコミミズク。野生鳥獣保護センターでリハビリ中 (撮影:周嘉韵
 

 3.鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリ

8月15日から8月19日までは、鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリでインターンシップをさせていただきました。ネイチャーセンターは冬しか開館しないため、館内作業が少なく、また台風の影響で作業が途中で中断してしまうときもありました。そのため、タンチョウ採食地調査や、野外セミナ―など、屋外での活動が主となりました。

今回はタンチョウと地域の人々との関わりが一番印象的でした。鶴居村では地元の方々とタンチョウとの関係はすこし複雑で、タンチョウは誇りや身近な鳥であると同時に食害問題や牛を驚かす存在でもあります。そのため、貴重なタンチョウを守ると同時に、地元の方々の利益も保つことが課題になっています。そして給餌をきっかけにタンチョウの数が33羽から1800羽に増えました。これは、成功とも言えますが、給餌への依存性が増えたことにより、密度過多となって、タンチョウ間に伝染病が起こり易くなったこと、また交通事故が多発することになったなど、様々な課題が出て来きました。そのため10年間で餌を半分に減少させる計画が立てられました。こうやってタンチョウへの影響を考えつつ、状況によって環境調査や整備を行う仕事は本当に素晴らしくやりがいがあると思いました。

また国立公園内の私有地の開発問題や鳥獣救護センターの飛べないオジロワシ処理問題、メガソーラー建設計画や湿地再生事業などについて、現場を回りながら丁寧に説明していただきました。これは大変よい勉強になりました。

 
図5.タンチョウ採食地調査の様子。左:原田さん 右:鈴木さん (撮影:周嘉韵



図6.鈴木さんによる釧路湿原再生計画説明 (撮影:周嘉韵

 

三つのインターンシップを通して、都市公園としての管理業務から、広大なサンクチュアリでの管理業務まで、さまざまな体験をさせていただきました。またそれぞれ抱えている課題も認識できました。こうした多様な職場でのインターン体験は、私にとって大変印象的で、大きく成長することができたと感じました。さらに、どの場所においても、レンジャーの方の知識の豊かさと環境保護への熱心な思いは、まったく変わらないと思いました。

最後に、お世話になりました東京港野鳥公園の西川さん、嶋村さん、森さん、山崎さん、杉浦さん、青木さん、古澤さん、ウトナイ湖サンクチュアリの中村さん、和歌月さん、小山さん、瀧本さん、そして鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリの原田さん、鈴木さん、櫻井さんにこころから感謝申し上げます。