【インターンシップレポート】「NPO法人緑と水の連絡会議」森田なつみ
2017年10月16日 13時20分人間総合科学研究科世界遺産専攻 森田なつみ
Internship Experience at The Liason Conference of Green and Water
Natsumi Morita,
World Heritage Studies, Graduate School of Comprehensive Human Science, University of Tsukuba
この度私は自然寄附講座のご支援のもと、2017年9月10日から9月24日まで、NPO法人緑と水の連絡会議にてインターンシップをさせて頂きました。NPO法人緑と水の連絡会議は、島根県大田市に拠点を置く組織で、三瓶草原をはじめとする地域の里山の生態系と暮らしの保全を目的として設立された市民団体です。主な活動内容としては、三瓶草原の生態系保全活動(野焼き、イバラ刈り、希少固有動植物の保全など)、全国草原再生ネットワークの事務局として全国の研究者・行政・諸団体の連携を促進、静間川水系を中心とした水棲動植物の生育環境保全にむけた調査や実践活動といった自然保護活動のほか、様々な困難を抱える青少年の居場所づくり、地域の子育て支援、国際交流イベントの開催といった地域交流促進活動も行っています。
私が行ったインターンシップの内容は、9月10日から24日に開催された国際ワークキャンプへの参加でした。この国際ワークキャンプは、国内外の若者がボランティアとして自然保護活動や地域交流イベントへの参加をするというもので、今回で22回目の開催となりました。今回の参加者は、日本人大学生が私を含め5人、スペイン人1人、ポルトガル人2人、ロシア人1人の計9人でした。このワークキャンプでは様々な活動に参加させて頂きましたが、特に印象に残っている活動を2つご紹介させて頂きたいと思います。
まず1つ目は、富山プロジェクトという活動です。これは、大田市富山町を訪問し、町内の散策や地域住民との交流を通して、富山町の魅力や課題について考え議論し、今後への提言を行うというものでした。富山町の今後に対する提言としては、登山道の整備や廃校・空き家の活用といった現在ある資源の活用と、観光モデルルートの作成やワークキャンプの開催といった新たな魅力の創造について提案をさせて頂きました。議論の反省点としては、全体的に観光に関する話題に傾いてしまったと思います。現状として富山町は観光地ではなく、地域住民がそれを望んでいるかも不明です。また、私たちからの提案はかなり理想論的であり実現に向けては様々な問題が生じることが予想されます。このプロジェクトでは、私自身の専門分野に近いこともあり、とても有意義な時間を過ごすことができたと思います。議論を通して、日本の地方集落の現状と活用方法に関する、日本人大学生の視点や外国人の視点を知ることができたことは、私にとってとても大きな収穫になりました。個人的には、富山町は日本の地方集落の典型例であると思いました。つまり、都市にはない豊かな自然が残っており、地域住民の温かさを感じることができる、多くの人々を魅了できるポテンシャルを秘めた地域ではありますが、現状としては誰にも知られていない場所であると言えると思います(図1・2)。私自身、このワークキャンプに参加しなければ、おそらく一生富山町の魅力を発見できなかっただろうと思います。ただ、このようなことは決して富山町に限ったことではなく、日本のあらゆる地域で起きていることだと思います。この点に気付けたことも、私にとって大きな収穫でした。
図1. 福泉寺
図2. 要害山の山頂から見た棚田の広がる景色
特に印象に残っている活動の2つ目は、ワサビ田の整備活動です。ワサビ田でのワークは、私がこのワークキャンプで1地番楽しみにしていた活動のひとつでした。念願のワサビ田は想像以上に綺麗でした(図3・4)。ワサビ田の環境保全のため、草抜きや不要な石の除去をし、また石積みに生えたコケの除去もしました。ワサビ田は山の湧水が常に上段から下段へ流れているため、このような整備作業を怠ると、雑草やコケによって発生した菌が上段から下段へ伝い、ワサビ田全体に影響が出てしまうということでした。このワサビ田は険しい山の上にあり辿り着くのも大変なうえ、ワサビは4年に1度ほどしか収穫できないそうで、収穫までこうした細かな作業を繰り返さねばならないそうです。私がワサビ田を見たのは今回が初めてで、これまでワサビがどのようにして育てられているのかも、ワサビ農家さんの苦労も全く知りませんでした。作物の収穫まで様々な苦労があるのはワサビだけではないと思いますが、このワークを通じてこれまで知らなかったこと、気にかけたこともなかったことをまたひとつ知ることができました。
図3.ワサビ田の様子①
図4.ワサビ田の様子②
今回のワークキャンプでは、他にも世界遺産である石見銀山の景観を守るため仙の山における竹やウドの伐採、三瓶草原の環境を保全するため三瓶山におけるクズの伐採などの自然保護活動、また多くの地域交流イベントへの参加をさせて頂きました。全ての活動において、様々な“気付き”を得ることができ、とても有意義な時間を過ごすことができました。石見銀山は世界遺産ですが、地域の人々はただ単に世界遺産だからという理由だけで景観の保護に取り組んでいる訳ではなく、自分たちの地域にとっても守るべき価値のあるものだときちんと認識しているからこそ、こうした取り組みが成り立っているのだと感じました。そしてその活動の中心にいる組織が地域に根付いた市民団体であることが、そうした地域住民の意識向上に繋がっているのだと思いました。自然保護に関することはもちろん、地域活性化活動にも関わることができ、とても貴重な経験をすることができました。最後に、このような機会を与えて下さった先生方、温かく受け入れて下さった緑と水の連絡会議の皆様、お世話になった全ての方々に心より感謝申し上げます。ありがとうございました。