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【レポート】サイエンスコミュケーションで大切なこと ~専門家も参加したコミュニケーションを始めよう~

2022年6月14日 14時37分

サイエンスコミュケーションで大切なこと ~専門家も参加したコミュニケーションを始めよう~

生命地球科学研究群 環境科学学位プログラム 水木 陽菜

「コミュニケーション」で悩んだ経験はありますか?よく知っている家族や友達でも、ちょっとしたことがきっかけで誤解が生まれてしまったり、うまくコミュニケーションが取れなくなってしまったりすることがあります。コミュニケーションは日常生活に欠かせないですが、サイエンスに関わる話題でもそれは同じです。さまざまな社会問題の解決が求められている現代、専門家と市民の間の「サイエンスコミュニケーション」が重要視されています。今回は、このサイエンスコミュニケーションが社会で必要とされている役割について考えてみました。

【サイエンスコミュニケーションとは?】

「サイエンスコミュニケーション」とは、科学的な専門知識を持つ専門家とその分野に専門的でない市民との双方向のコミュニケーションのことです。例えば現在、私達にとって大変身近なコロナワクチンで考えてみると、専門家はその安全性や効果などを直接またはテレビなどのメディアで間接的にコミュニケーションを取り、市民に説明する必要があります。それがうまくいかないと、不安が残るためにワクチンを打たない選択肢をする市民が増えたり、疑念が膨らんで陰謀論が広まったりする可能性があります。

私がコミュニケーションがうまくいっていないと感じている社会課題があります。それは、特にSNSを通して影響力のある著名人もよく発信している「SDGs」。私は環境科学を専攻しているので、環境問題に関連した投稿を見ると「それほんとなの?」と思うこともあります。本質からずれていても、真に受けてしまう市民も多くいるように感じます。認知度が高まるのは良いことですが、間違った知識が広まってしまうことは止めなければなりません。そのためには、適切なコミュニケーションが必要なのではないでしょうか。

そこで今回、SDGsに関連したコミュニケーションの現状と課題を取材し、適切なコミュニケーションとは何か、そしてそれを行う上で大事にすべきことを考えてみました。

【専門家と市民の間に立つ行政の役割】

私の身近なSDGsを考えてみると、つくば市内を走るバスにプリントされている「やさしさのものさしSDGs」というつくば市のSDGsへの取り組みのコンセプトが思い浮かびました。

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「やさしさのものさしSDGs」という言葉がプリントされたつくば市が運行しているコミュニティバス「つくバス」

行政が担うサイエンスコミュニケーションには、大きく分けて「専門家―行政―市民」という3段階の主体があると考えられます。そこでまず行政の立場から、つくば市役所持続可能都市戦略室の室長吉岡直人さんと主事の古宇田泰弘さんに、感じている課題と、どのような取り組みを行っているかを取材しました。

はじめに、「やさしさのものさし」でSDGsとはどういうものかが市民に伝わっているかどうかを尋ねたところ、実際に市民からの反響を調査したことはないものの、吉岡さんによると「認識されるだけで大成功、まずは身近なものだと感じてもらうことが大切」だということです。正しい知識でコミュニケーションするためには、市民の側にも興味がないと成り立ちません。行政がその興味を引き出すための入り口づくりを担っていると考えられました。

SDGsと言っても、その17のゴールは多種多様です。市民一人ひとりの行動につなげるための具体的な活動は、持続可能都市戦略室だけではなく、それぞれの部局がコミュニケーションを図り連携して行う必要があります。そこでつくば市役所では、職員研修にSDGsの内容を取り入れたり、各部局が考えた目指すゴールのステッカーを窓口に貼ったりして意識の向上につなげているのだそうです。他にも、広報室がSDGsへの取り組みを伝えるコンセプトブックの作成を行い、イベントの宣伝も連携して行っています。市民とのコミュニケーションのためには、行政内での「連携」と、効果的な「発信」が課題のようです。

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窓口に貼られている各部局の目指すSDGsゴール

さらに、言葉の誤解を解くことの重要性についても聞きました。SDGsは「持続可能な開発目標」と訳されることがあります。「開発」と聞くと、新しく建物を建てる、産業や交通を活発にするというようなイメージを持ちます。しかし、SDGsのD(development)は、「社会全体で人間らしい生活を向上させていく」という意味を持つということです。行政は産業を発展させるための活動ではなく、そのようなまちづくりのために市民の参加を活性化する活動をする必要があります。吉岡さんは、「まずは行政がその趣旨を正しく理解するところから始めなければいけない」と話していました。

【専門家と市民がつながる】

次に専門家の代表として取材したのは、筑波大学生命環境系教授の田村憲司先生。田村先生は、筑波大学とつくば市が協働している社会貢献プロジェクトである「つくばSDGsパートナーズ」の育成に携わり、つくば市が開講する「つくばSDGsパートナー講座」で司会を務めるほか、「つくばSDGsトライ」や「つくば環境マイスター育成講座」の運営に関わっています。つくばSDGsパートナー講座とは、つくば市が年4回開講している市民向けの講座で、毎回テーマを変えてSDGsに関わる専門家が講演を行っています。

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つくばSDGsパートナー講座で司会を務める田村先生

田村先生は「大切なことは市民にSDGsに触れる機会を与えること」とおっしゃっていました。SDGsの達成に重要なのは一人ひとりができることから始めることです。興味を持った先にこの講座があるように、選択肢を増やしておくことが必要になるというのが先生の考えです。

さらに、「専門家の声を市民に届けることも大切」だということでした。この講座では、市民の質問にその場で専門家が答えるため両者の距離がとても近く、一方的に配信される動画にはないコミュニケーションの場があります。市民からすると、専門家がいることで興味の持ち方や学びの深さも大きく変わるのではないでしょうか。持続可能都市戦略室への取材で、吉岡さん達から「大学は敷居が高い」という意見も聞いていましたが、専門家と行政間でのコミュニケーションの取りづらさという課題を乗り越え、専門家と市民がつながることが必要だと考えられました。

【専門家も参加したコミュニケーションを始めることが大事】

「それほんとなの?」と思ってしまうような情報があふれているSDGsですが、それだけ人々の関心が高いとも捉えられます。専門家がその興味に応えなければコミュニケーションは始まりません。間違った知識を広めないためには、SNSの投稿内容ではなくて、そもそも専門家も参加したコミュニケーションが始まっていないことを見直す必要があるのではないでしょうか。

専門家の中には研究者も含まれます。研究者にとっての一番の発信媒体は論文ですが、投稿してもアピールのようだからプレスリリースはしない、投稿できるほどの確証がない情報は発信しない、という研究者も多くいます。そういう立場や考え方の違いがコミュニケーションを滞らせる大きな原因になっているのかもしれません。でも、専門家だけがコミュニケーションの始まりの全てを担う必要はありません。つくば市が間に入っているように、サイエンスコミュニケーターという役割があります。専門家と市民をつなぐ役割を担う組織や人材が、今、必要とされているのではないでしょうか。