【レポート】自然という「遊び場」の案内人―エコツアーガイド
2020年10月22日 09時42分自然という「遊び場」の案内人 ーエコツアーガイド
人間総合科学研究科 世界遺産専攻 鄧文超
かつて自然の中で生活し、「森から来た」私たちですが、今や「森の中で遊ぶのが怖い」という方も多いかもしれません。山を登りたくでも遭難が心配?自然の楽しさがわからない?希少な植物を守りたくても、どれがどれなのかさっぱり?そんな皆さん、「エコツアーガイド」はご存じでしょうか。エコツアーガイドは皆さんの心配を解消し、自然という「遊び場」を案内してくれます。エコツアーガイドと一緒であれば、自然の楽しさを味わうことができるのです。一方で、地元の自然を守るという大事な活動もしていますが、処遇や仕事の継続性という面で問題のある職業です。エコツアーガイドが職業として成り立つ方法はあるのでしょうか。エコツアーやエコツアーガイドについて長年研究してきた筑波大学世界遺産専攻教授の武正憲先生にお話を伺いました。
人と自然を繋ぐエコツアーガイド
エコツアーガイドを紹介する前に、まずエコツアーについて説明しましょう。
最近、森や海、あるいは山にいったことはありますか?都会に住んでいる人々が日々の生活や仕事にストレスを感じた時、身近な自然に触れるのもストレス解消方法のひとつです。土と草の匂いの混じった空気を吸って、川と鳥の音を聞きながら森の中を歩く。これでストレスを解消できるでしょう。自然を感じさせるだけでなく、森や山などの自然を体験する活動をさせるツアーが、エコツアーです。
植生を破壊してしまうのか、山で遭難するのか、自然の中での遊び方を知らず、つまらなくなるのか。自然は人の「遊び場」であるはずですが、あまりにも自然から離れてしまったため、人は自然の楽しみ方がわからなくなってしまったのです。そこで、自然という「遊び場」の案内人、「エコツアーガイド」の出番です。
普通のガイドの仕事は観光客に観光ポイントを紹介することが仕事ですが、エコツアーガイドの仕事は、自然環境への影響に配慮しながら観光客に自然の体験をさせて、植物や動物などの知識を面白く伝えることです。そのため、エコツアーガイドは自然について豊かな知識を持っており、自分がガイドする場所をよく知っている必要があります。そして、自分の仕事に深い愛があるプロフェッショナルです。
山でのエコツアーのイメージ
ゆるくない「案内人」の仕事
エコツアーガイドには各自の得意分野があり、ユニークで質の高いエコツアーを観光客に提供しており、そのため、仕事の進め方もガイドごとに異なります。たとえば山や植物について詳しいエコツアーガイドの仕事は下の通りです。
専門知識を駆使した植物観察ツアーを企画する場合、観光客が興味をもって応募してきたら、エコツアーガイドはツアーを実施する前または前日にツアーのルートをチェックします。ツアーを順調に進めるために、道の状態、野生動物の行動の様子、観察できる植物などを事前に確認するのです。
いよいよツアー当日になったら、天気予報や交通状況を調べたりするなど、確認することが少なくありません。観光客を迎えたら、観光客の様子を見ながら臨機応変に解説し、体験させて、やっとツアーが終わります。しかし、仕事はまだ終わりではありません。体験道具があればその片付け、次のツアーのチェック、今日のツアーのルートや、山そして植物などの記録など、エコツアーガイドの一日は忙しいのです。
愛だけでは職業として成り立たない
日本のエコツアーガイドは安定した職業ではありません。個人で営業するか、協会に所属している場合が多く、いずれにしろサラリーマンのような定額の給料がないのです。
また、武先生によると、エコツアーガイドの仕事は休日がメインです。普通の人は多くの場合は週に五日間働いて稼いで生活していますが、多くのエコツアーガイドは二日間で稼いで生活していかなければならないのです。この二つの原因で、エコツアーガイドは「稼げない」職業になっています。
そのため、エコツアーガイドは夢のある職業でありながら、若者に選択される機会が少ないです。埼玉県の飯能市はエコツアーやエコツアーガイドが有名ですが、多くはリタイアした方や本職があって兼業している方だということです。
このように、我々の自然の旅をもっと楽しませてくれる「案内人」―エコツアーガイドは職業問題に直面しています。
ガイドと自然保護の両立ー美しい未来への打開策
エコツアーやエコツアーガイドについて長年研究してきた武先生は、その問題の解決に立ち向かっています。「エコツアーガイドが稼げない原因は仕組みの問題」(武先生)だということです。
武先生は、まず、エコツアーガイドが稼げない部分の仕事である、平日のルートチェックに着目しました。エコツアーを実施しているところは自然遺産地や国立公園など自然が豊かで重要なところが多く、ツアーだけではなく、自然研究、環境保護が行われています。大量なデータを得るためにはモニタリング調査が大切ですが、プロの研究者は忙しく、人手不足問題があり、長期にフィールドに滞在するのは難しいからです。
この問題をエコツアーガイドが解決できるかもしれません。ルートチェックで森や山の奥まで行くため、簡単なモニタリング調査であれば実施できる可能性があるからです。武先生は「ルートチェックと同時にモニタリング調査を行えば、新しい収入ができ、エコツアーガイドが稼げないという問題もある程度解決できるかもしれない」と展望を語っています。
筑波大学世界遺産専攻准教授の武正憲先生。
大学時代からカヤックやスキーが趣味で、その延長でプロのエコツアーガイドになった。
エコツアーを熟知し、エコツアーガイドの楽しみも苦しみも、その身をもって知っている。
大学時代からカヤックやスキーが趣味で、その延長でプロのエコツアーガイドになった。
エコツアーを熟知し、エコツアーガイドの楽しみも苦しみも、その身をもって知っている。
自然への深い愛があると同時に、自然についての深い知識も持つエコツアーガイドは、人々に自然の大切さ、面白さ、「遊び場」としての遊び方を教えるのが夢であり、職業としたいと願っています。武先生が世界遺産専攻で進める研究は、エコツアーガイドの夢を叶える道を開くことでしょう。