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【レポート】対話ではじめる環境問題

2020年5月27日 16時11分

対話ではじめる環境問題 ~コミュニケーションにできること~

生命環境科学研究科 山岳科学学位プログラム 山田志穂

大気汚染、森林破壊、地球温暖化…世の中に存在する様々な環境問題は、人類誰もが関係者である一方、影響の大きさには偏りがある。国、地域、生産者、消費者、家族、個人—主体によって認識は異なり、利害や価値観の対立から議論は困難になる。環境問題は人間の問題なのだ。解決の糸口はどこにあるのか。本記事では、環境問題における対立構造とコミュニケーションに着目し、国立環境研究所のコミュニケーション組織 である「社会対話・協働推進オフィス(以下対話オフィス)」にインタビューを行った。


対話オフィスができるまで

図1 対話オフィスの概要図。ロゴのベースとなる「DaC」は「対話と協働」の英語表記であるDialogue and Co-productionの頭文字で構成されている。(対話オフィスHPより引用https://taiwa.nies.go.jp/about/overview.html)

対話オフィスは、国立環境研究所の第4期中長期計画の開始に伴い、2016年度に設立された。環境問題・研究と社会の様々な主体をつなぎ、対話や協働による学びあいの推進を目標として、ワークショップ、サイエンスカフェなど、様々な活動を実施している。設立の背景には、「環境問題は科学技術だけでは解決できない」という、世界的な問題意識があったと、代表の江守正多さんは語る。

対話オフィスができる前、”Future Earth(国際的な地球環境研究プログラム)”の中で、transdisciplinary、つまり超学際的という概念が提唱されたという。危機的状況にある環境問題の解決のため、分野横断的、すなわち学際的に研究を行うだけでなく、学術と社会の間をも超えて、研究そのものを社会と共働で実施しようというコンセプトだ。こうした思想をヒントに、国立環境研究所でも、研究所における情報発信の在り方について改めて議論がなされた。そうして生まれたのが、一方的な発信だけでなく、社会のニーズや疑問に耳を傾けるための双方向的なコミュニケーションを行う組織、対話オフィスである。

気候シミュレーションによる将来予測を専門とし、温暖化問題の第一人者として広く活躍してきた江守さん自身も、Future Earthの提唱と同様の思いを抱いていたという。「温暖化はホントかウソか」、 「対策を積極的に行うべきか否か」といった論争に幾度も巻き込まれる中、「問題」・「解決」の定義すら主体によって異なることから、議論を進めるには双方向の対話が必要だと考えるようになった。

「私たちは専門家として知識があるかもしれないけど、社会問題の答えを持っているわけじゃない。科学者だけで答えを見つけることはできないので、社会の人たちと一緒に話さなくてはいけない、という姿勢を持つことが原則としてすごく大事で、かつ多くの科学者ができていないことだと思う」と語る江守さん。超学際的な姿勢は対話オフィスを進める上での基本理念となっている。


目指すのは“後ろ盾”


図2 右から対話オフィス代表を務める江守正多先生、コミュニケーターの岩崎茜さん、前田和さん。

対話オフィスは、小学生から企業のステークホルダーまで、幅広い年齢層を対象としたイベントを行っている。トピックに応じて研究者が協力しつつ、対話の場の設計やファシリテーターは、コミュニケーターである岩崎茜さん、前田和さんが中心となって行っている。SNSやsli.do(スライドゥ)といったツールの利用、外部とのコラボ企画など、より多様な人たちとの対話を目指し、様々な方法を模索しているという。特に留意しているのは、あらゆる意見を「社会に存在する一意見を知る機会」として尊重することだと前田さんは語る。
「そういう意見の方もいるんだ、という気づきはすごく大切なことで、一方通行じゃないことの醍醐味だと思っています。” マイノリティ” っていう言葉があまり好きじゃないんです。一意見は一意見で、それが少数、多数ということにはあまり関係ないと思う。それが難しいことでも、真摯に受け止めたいなと思っています」。

一方、対話の障害となるのは、個人の正義観や信頼関係といった、これまた科学では解決できない問題だという。岩崎さんは、メディア出演が多く社会に馴染みのある人物の言葉は、裏付けの有無に関わらず信頼されやすい、という自身の経験談をあげた。「どれを信じるかはその人の意見なので、押し付けられないじゃないですか。私たちの意見が”より正しい”のかはわからないですけど、信じてもらえるような研究所になる伝え方が大事かなと思います」。

人々が社会を変えたいと考え、行動を起こそうとする時、後ろ盾となれるような情報を提供できる場になりたいと二人は語る。「研究所内における研究所外」のような、研究者にも、市民にもオープンな情報プラットフォームを目指し、対話オフィスの活動は拡大しつつある。


常識の変化を加速しよう

環境問題の解決に向け、対話を推進していく意義は何か。江守さんは分煙を例に挙げた。二、三十年前は自由に煙草を吸うことができたが、現在はすっかり分煙が「一般常識」となってしまった。「同じように、CO2を出さずにエネルギーを使わなきゃいけないと意識したこともない人が、世の中にはたくさんいると思います。けれども、それを理解した人の数がある程度のマスを超えると、常識が変わると思う。すると、今まで興味がなかった人も、いつのまにかCO2を出さずにエネルギーを使うことになるんじゃないかと思っていて。だから僕は、少しでも多くの人が、”常識の変化の加速”に参加してくれるように、意見を持ってくれるようにやっているつもりです」。

対話は、情報のやり取りだけが目的ではない。我々が「持続可能な社会」という未来を選ぼうとする時に、生じうるリスク、犠牲にしなければいけないものは何か。逆に、どうしても守りたいものは何なのか。一人でも多くの“私たち”が、考え、議論し、意見を持つこと。それがゴールでもあり、スタートでもあるだろう。