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2017/01/25

【レポート】サスティナブルコーヒーが切り拓く未来の可能性

| by 事務(世界遺産)

 自然保護寄附講座では、今年度から「サイエンティフィックジャーナリズム」という新しい講義を立ち上げました。これは、学生たちが思い思いにテーマを選び、自ら取材を行って、その内容を記事にまとめるというものです。記事の書き方は、プロのサイエンスジャーナリストの方にご指導をいただいています。本講義を受講された菊池さんのレポートを紹介します!

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サスティナブルコーヒーが切り拓く未来の可能性

生命環境科学研究科 生物資源科学専攻
菊池 美紗子

 

年間900万トンの生産量を誇り、世界中で愛される嗜好品、コーヒー。

しかし、コーヒーがどこからやってくるのか意識して飲んでいる人は多くはないだろう。コーヒーは、赤道付近に位置する70ヵ国以上の国々の畑からやってくる農作物なのである。

  

左から、コーヒーの収穫風景、コーヒーの実、ハワイのコーヒー農園(筆者撮影)

 

 この数年、日本では「ブルーボトルコーヒー」が上陸したことなどがきっかけとなり、雑誌やテレビでもコーヒーの特集が増えた。コーヒー豆の栽培も注目されるようになり、「サスティナブルコーヒー」という言葉も散見するようになった。直訳すると「持続可能なコーヒー」となるが、一体どういう意味なのだろう。その実態を探るため、2016725日、東京大学で開催された「第47回コーヒーサロン:サスティナブルコーヒーとは何だろうか?」という講演会を取材した。

 

 満員の会場。「サスティナブルコーヒーとは何だろうか?」という、少々難しいテーマにも関わらず、このテーマに対する聴衆の関心の高さが伺えた。

東京大学東洋文化研究所教授の池本幸生氏

 

世界が“持続的な開発”に目覚めるまでの道のり

 講演会ではまず、東京大学東洋文化研究所教授の池本幸生氏が「持続可能な開発とは?」というタイトルで、「持続可能な」「サスティナブル」という考え方の派生や意味、そしてそれに通ずる思想について解説した。

 持続可能な開発という言葉が生まれるより前に、資源の枯渇に警鐘を鳴らした知識人として紹介されたのがバックミンスター・フラーである。フラーは「宇宙船地球号」という言い回しを使い始めた人で、地球を一つの閉じた空間という意味で宇宙船に喩え、有限な化石燃料を消費し続けることの愚かさを指摘した。のちに経済学者であるケネス・E・ボールディングが、フラーの言葉を引いて『来たるべき宇宙船地球号の経済学』というタイトルのエッセイを書いている。

 フラーやボールディングが彼らのオリジナルな思想を展開したのは1960年代であるが、日本でこうした思想が意識され始めたのは1970年代。この頃、日本では四大公害病を始めとした公害が問題となり、また二度の石油危機が起きた。「高度経済成長を遂げた日本で、資源の有限性や環境汚染が強く意識され始めた」と池本氏は考察した。

 次に同氏は、現在でも「持続可能な開発」の言葉の原義として引用されている1987年の「ブルントラント報告書」を紹介した。国際連合の「環境と開発に関する世界委員会」(通称、ブルントラント委員会)1987年に発行した最終報告書であり、「将来の世代の欲求を満たしつつ、現在の世代の欲求も満足させるような開発」という概念が書かれている。

 最後に池本氏は、現在世界が取り組んでいる行動指針として「Sustainable DevelopmentGoals(SDGs)」を紹介した。20159月の国連総会で採択されたこの指針は、社会的、経済的、環境的という3つの視点から構成されている。トリプルボトムラインと言われるこの視点は、SDGsだけでなく、フェアトレードラベルやレインフォレストアライアンスなどの認証団体のそれぞれの指針にも採用されているという。

 

()ミカフェート社長の川島良彰氏

 

コーヒー栽培が直面する問題の数々

次に、()ミカフェート社長の川島良彰氏が「サスティナブルコーヒーとは?」というタイトルで、コーヒービジネスにおけるアンサスティナブルな問題について、社会、経済、環境の三つの視点から包括的に解説した。本記事では、経済、環境面での問題について特に着目し紹介したい。

 2001年、コーヒーの取引価格の大暴落が世界中のコーヒー農家を襲った。悲劇の始まりは1997年、コーヒーが投機ファンドの対象になったことであるという。コーヒーは徐々に価格を上げていったが、そのバブルは2001年崩壊し、一時1ポンド318セントまで上昇したコーヒーの価格は1ポンド41セントまで暴落したのだ。

 コーヒー農家は、コーヒーを作っても生活していけない状況に追い込まれ、農園は次から次へと夜逃げ同然に放棄された。後に「コーヒークライシス」と呼ばれ、コーヒービジネスの持続性を脅かした大事件である。

 コーヒー業界はこのコーヒークライシスによって大いに揺らぎ、「サスティナブル」という言葉を意識するようになった。生産者がコーヒーを作って生活していけなければ、コーヒーを売る側もいずれは破滅の一途を辿ることに気づいたのだ。

 さらに川島氏は、「可哀想な生産者」ばかりクローズアップされる状況にも警鐘を鳴らした。コーヒーの取引価格が上昇すれば、可哀想な輸入業者や焙煎業者が生れる。この状況もやはり、コーヒークライシスと同様にアンサスティナブルな状況なのである。「コーヒーのビジネスに関わる全てのサプライチェーン(コーヒーの栽培から販売までにある全ての段階)がサスティナブルにならないかぎり、サスティナブルなコーヒーは実現しない」と同氏は強調した。

 アンサスティナブルな問題はコーヒーの取引価格だけに起因するものではない。冒頭でも述べたように、コーヒーは農作物なのであり、コーヒー農家は近年のめまぐるしい気象変動に悩まされている。乾季と雨季のパターンの変化、ラニーニャやエルニーニョ、大雨や干ばつ・・様々な気象変動の影響は、収穫期の変化、生産量の減少、インフラの破壊など多岐にわたっており、しかもその一つ一つが無視できないほど深刻である。温暖化によりコーヒーの栽培適地が減少しつつあることも問題だ。以前は標高1200m以下でしか発生しなかったコーヒーの病気が、近年では1700mくらいでも発生するようになってきたという。また、標高が100m上がると気温が0.6下がるため、気温が上昇すれば従来よりも標高の高い地域でコーヒーを栽培しなければならない。「温暖化の影響で2050年にはコーヒーの栽培適地が今の半分になるのではとも言われている」と川島氏は述べている。

コーヒーの花(20151月にタイで筆者撮影)

 

コーヒーで未来は変わるのか

 

 以上のように、「持続可能なコーヒー栽培」を実現するための道のりは平坦ではなさそうだ。しかし、日陰で栽培が可能なコーヒーは、実は環境保全も両立させながら、サスティナブルに開発を進めていくための最良の手段となりうる、と筆者は考える。

 国際コーヒー機関(ICO)によると日本のコーヒーの消費量は世界で4位である。我々一人ひとりが、あの黒い液体を飲む度に、遠い国で栽培されているコーヒーの木を巡る情勢を知り、想いを馳せ、行動を起こすようになれば、未来は変わるかもしれない。


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